地理的表示
地理的表示(ちりてきひょうじ、英: geographical indications、GI)は、ある商品の品質や評価が、その地理的原産地に由来する場合に、その商品の原産地を特定する表示である。条約や法令により、知的財産権のひとつとして保護される。
目次
1 定義
2 保護制度
2.1 国際的保護制度
2.2 各国における保護制度
2.2.1 欧州における保護制度
2.2.2 日本における保護制度(GI)
2.2.2.1 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)
2.2.2.2 酒類の地理的表示に関する表示基準
2.2.2.3 不正競争防止法
3 脚注
4 関連項目
5 外部リンク
定義
世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定、1995年発効)第22条1では、「地理的表示」を以下のように定義している。
この協定の適用上、「地理的表示」とは、ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう。
一方、世界知的所有権機関(WIPO)の工業所有権の保護に関するパリ条約は、原産地表示及び原産地名称を保護の対象に含めており、WIPOではこの両者を合わせて地理的表示と呼んでいる[1]。WIPOが管理する原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定(リスボン協定)第2条(1)では、原産地名称を以下のように定義している。
この協定において、「原産地名称」とは、ある国、地方又は土地の地理上の名称であって、その国、地方又は土地から生じる生産物を表示するために用いるものをいう。ただし、当該生産物の品質及び特徴が自然的要因及び人的要因を含む当該国、地方又は土地の環境に専ら又は本質的に由来する場合に限る。
すなわち、狭義の地理的表示や原産地名称は、ある地域の地名が商品の名称として用いられるものであって、その商品の品質や特性がその地域の環境に由来するものを指す。これに対して、広義の地理的表示や原産地表示は、ある地域の地名が商品の名称として用いられるもの全般を指す。
例えば、フランスのボルドーワイン(ボルドー産)、イタリアのゴルゴンゾーラチーズ(ゴルゴンゾーラ産)、スイスのエメンタールチーズ(エメンタール産)などが狭義の地理的表示にあたる。
保護制度
国際的保護制度
WTOのTRIPS協定では、地理的表示一般について保護の義務を定めるとともに(第22条)、ワイン(ぶどう酒)とスピリッツ(蒸留酒)についてはさらに追加的な保護を定めている(第23条)。
WIPOのリスボン協定は、原産地名称の国際登録制度について定めている。
各国における保護制度
欧州各国は全般に地理的表示の保護に積極的であるが、アメリカ合衆国などのアメリカ大陸諸国は地理的表示の保護に対してあまり積極的ではない。これは、バドワイザー対ブドヴァルの裁判に代表されるように、アメリカ大陸では欧州の地名に由来する商品が多く製造・販売されているためである。
ウイスキーに関しては法律が制定されており、国内で消費されるアメリカン・ウイスキーやカナディアン・ウイスキーは国内で特定の製法により製造されたものだけが名乗ることが出来る。
欧州における保護制度
フランスのアペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ(AOC)は、ワイン、チーズ、バターなどの農産品の地理的表示を保護するための国内制度である。また、欧州連合(EU)では1992年に原産地名称保護制度を制定して域内での地理的表示の保護を図っている。
日本における保護制度(GI)
特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)
2014年6月25日、地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称(地理的表示)が付されているものについて、その地理的表示を知的財産として保護し、もって、生産業者の利益の増進と需要者の信頼の保護を図ることを目的として、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)が制定された[2][3]。2015年12月には、この法律に基づき、下記の7件が地理的表示として初めて登録された[4]。
- あおもりカシス - 青森県青森市、平内町、今別町、蓬田村、外ヶ浜町
但馬牛 - 兵庫県内
神戸ビーフ - 兵庫県内
夕張メロン - 北海道夕張市
- 八女伝統本玉露 - 福岡県内
- 江戸崎かぼちゃ - 茨城県稲敷市及び牛久市桂町
- 鹿児島の壺造り黒酢 - 鹿児島県霧島市福山町及び隼人町
その後の登録[4]については、テンプレートを参照のこと。
酒類の地理的表示に関する表示基準
TRIPS協定の成立を受けて酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律が改正され、同法の基で「地理的表示に関する表示基準」を定めてぶどう酒及び蒸留酒の保護を図ってきた。2005年(平成17年)10月1日には、保護対象がTRIPS協定の範囲を超えて、日本酒にも拡大された。2015年(平成27年)10月30日に「酒類の地理的表示に関する表示基準」(国税庁告示第19号)が公布され、これまでの基準(地理的表示に関する表示基準)が全面改正された[5]。現在定められている地理的表示は、以下の通りである[6]。
蒸留酒
壱岐 - 長崎県壱岐市(1995年6月指定)- 球磨 - 熊本県球磨郡・人吉市(1995年6月指定)
琉球 - 沖縄県(1995年6月指定)- 薩摩 - 鹿児島県(奄美市及び大島郡を除く)(2005年12月指定)
清酒
- 白山 - 石川県白山市(2005年12月指定)
日本酒 - 日本国(2015年12月指定)- 山形 - 山形県(2016年12月指定)
灘五郷 - 兵庫県神戸市灘区・東灘区・芦屋市・西宮市(2018年6月指定)
ぶどう酒
- 山梨 - 山梨県(2013年7月指定)
- 北海道 - 北海道(2018年6月指定)
不正競争防止法
不正競争防止法においても、原産地等誤認惹起行為を禁止するなど、地理的表示の保護が図られている。
脚注
^ About Geographical Indications - WIPO
^ “特定農林水産物等の名称の保護に関する法律 (PDF)”. 農林水産省 (2014年6月25日). 2018年3月18日閲覧。
^ 農林水産省 > 組織・政策 > 食料産業 > 地理的表示保護制度(GI) > 地理的表示法とは
- ^ ab農林水産省 > 組織・政策 > 食料産業 > 地理的表示保護制度(GI) > 登録産品一覧
^ “酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件”. 国税庁 (2015年10月30日). 2018年7月19日閲覧。
^ “酒類の地理的表示一覧 - 国税庁長官が指定した酒類の地理的表示(GI)”. 国税庁. 2018年7月19日閲覧。
関連項目
- 地域ブランド
- 原産地名称保護制度
保護原産地呼称 - PDO
- 地域団体商標
外部リンク
地理的表示保護制度(GI) - 農林水産省
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