地理学













地理学(ちりがく、英: geography、仏: géographie、独: Geographie (-fie) または Erdkunde)は、空間ならびに自然と、経済・社会・文化等との関係を対象とする学問の分野。地域や空間、場所、自然環境という物理的存在を対象の中に含むことから、人文科学、社会科学、自然科学のいずれの性格も有する[1]。広範な領域を網羅する。また「地理学と哲学は諸科学の母」と称される[2]


元来は農耕や戦争、統治のため、各地の情報を調査しまとめるための研究領域として成立した。




目次






  • 1 地理学の歴史


  • 2 地理学の諸分野


    • 2.1 系統地理学


      • 2.1.1 自然地理学


      • 2.1.2 人文地理学




    • 2.2 地誌学




  • 3 研究方法


  • 4 地理学を学べる日本国内の大学


  • 5 教育上の問題点


  • 6 脚注


    • 6.1 注釈


    • 6.2 出典




  • 7 参考文献


  • 8 関連項目


  • 9 外部リンク





地理学の歴史




「近代地理学の父」アレクサンダー・フォン・フンボルト



地理学誕生の地は、古代ギリシアである。学問としては、博物学の部門に属した。その源流は、各地の様子を記載する地誌学的なものと、気候や海洋について研究する地球科学的なものとに見ることができる。中世では停滞していた[3]ものの、ルネサンス期における地誌の拡大[3]や、18世紀以降、産業革命後の自然科学の発達と観測機器の発達は近代地理学の成立へと導いた[4]。現在見ることのできる科学的な地理学の源流は19世紀初頭のドイツでおこり、アレクサンダー・フォン・フンボルトとカール・リッターにより成立した[5]。彼らは「近代地理学の父」とされている[3]。彼らは地誌的な記述ばかりではなく、様々な地理的な現象に内的連関を認め、地理学においてその解明の重要性を説いた。


19世紀後半には、地理学者ら[誰?]によって各種系統地理学が整備され、日本など世界各国に地理学が移入された。1950年以降、アメリカ合衆国が中心になってコンピュータや統計データなどを用いて、計量的な地理学が世界中に急速に普及した[6]が、1970年代後半以降、この様な研究は他の分野[何の?]との競争に敗れ、北米を中心に一旦は衰退したが、地理情報システム (GIS) や地球環境に関連した応用的な研究が盛んになった[1]



地理学の諸分野


地理学は、大きく系統地理学と地誌学に分類され、系統地理学はさらに自然地理学と人文地理学に分けられ[7][8]、それぞれがまた細かく分類される。ただし、自然地理学の諸分野は地球科学の影響を受け、その中でも時に生態学や気象学、地質学などと連携されることが多い。人文地理学は歴史学・社会学・経済学などの近隣分野の影響を受け、それらの知識ならびに隣接分野の理論の十分な理解が要求される学問である。また、自然地理学・人文地理学ともに現地調査(フィールドワーク)やエクスカーション(巡検とも呼ぶ)を実施し、実地調査に基づく観察を重視する傾向があるのが特徴である。



系統地理学


地理学が論じられる際は、ほとんどが[要検証]この系統地理学(自然地理学・人文地理学)の諸分野となる。



自然地理学


自然地理学に該当するもの。ほとんどの場合、これらの学問成果をあげるには、現地調査(フィールドワーク)が要求される。いずれの場合も、学問上で厳格な線引きは存在せず、例えば気候地形学のような自然地理学の中でも分野のまたがった研究も往々にされている。



気候学

主に気候と人々との関係を考察する。都市気候、ヒートアイランド現象、エルニーニョ現象などもこの分野で扱う。

水文学


湖沼や河川、地下水を主な研究対象とする。現在では、陸水学という表現が主流になりつつある。[要検証]

地形学

あらゆる地形の成因、変遷などを考察。対象は山地、丘陵地、平野など。

第四紀学

主に第四紀の間に起きた環境の変遷、氷期/間氷期(第四紀氷河時代(英語版))の問題などを取り扱う。

海洋地理学


海に関係する地理学。自然では海岸線、海流、海底地形など。また人文では、海洋資源や境界線なども扱い、しばしば政治問題にも触れる。[要検証]

植生地理学


植生分布に関する地理学。フィールドワークによる場合と、花粉分析法を用い、泥層などから採取した花粉の年代測定をし、解明していく方法がある。

動物地理学


動物の生態・分布に関する地理学。生態学と密にしている場合が多い。植生地理学などと共にしばしば生物地理学と総称されることも。

土壌地理学


土壌に関する地理学。第四紀学などと連携を密にすることが多い。



人文地理学


人文地理学に該当するもの。これらもほとんどの場合、学問成果をあげるには、現地調査(フィールドワーク)が要求される。いずれの場合も、学問上で完全に独立しているわけではなく、例えば都市地理学と経済地理学の複合分野を研究対象にするということも可能である。



経済地理学


経済活動の空間的異質性を説明する地理学。各種産業に注目した産業地理学(農業を扱う農業地理学、工業を扱う工業地理学、商業を扱う商業地理学などがある)、消費者行動に注目した消費地理学、産業等の立地展開に注目した経済立地論などが主要なテーマ。これらは、人文地理学の中でも議論されることが多い分野である。そのほかの分野として、近年、英米の地理学者を中心に、小売業の立地的側面、金融的側面、消費者行動的側面など小売業を多面的に扱った新しい小売地理学や、経済活動の文化的側面に注目する傾向、そして、グローバルな経済活動がもたらすさまざまの問題を帝国主義や世界覇権とのかかわりで論ずる批判地理学が現れている。だが日本ではこの分野の研究者は少なく、発展途上の段階にある。経済地理学は地理学の専売特許ではなく、経済学においても研究されている。

社会地理学


社会階層や社会構造など社会学に関するテーマに対する地理学。具体的には、民族問題や過疎・過密、女性問題やコミュニティの問題などを扱う。

政治地理学


政治に関する地理学。過去には、軍事侵略や植民地に関するテーマを扱っていた。現在は、学区域の問題や国政や地方行政や国際関係と地理との関係を主流にする。最近では、地理学で政治を扱うと、学問の性質上、地方自治にスポットがあてられることが多いので、この分野を敢えて行政地理学という表現をすることもあったが、近年では、グローバルな政治の問題も、新しい地政学などとしてしばしば取り上げられる。

都市地理学


都市特有の現象を扱う地理学。交通網・移動、犯罪・非行や、都心・郊外に関するテーマなどを扱う。経済地理学・社会地理学と連携を密にすることが多い。また、都市計画学、都市工学、都市社会学などの分野ともしばしば連携される。

歴史地理学

地理学では、通常時間軸は現在であるが、歴史地理学は過去である。歴史的な現象・事柄の文献学的な意義のみならず、地理学的な意義を求める分野である。歴史学の一分野としても扱われるが、通常は地理学の分野である。民俗学と連携をとることもある。

文化地理学


文化や風俗を扱った地理学。宗教施設や、祭りなどを考察対象とする。民俗学・文化人類学・社会学などとの連携をとることもある。

宗教地理学


宗教に関する地理学。地理学では、多くは宗教の教義や思想的なアプローチは行わず、宗教の社会的・文化的役割とその関係を見ることがほとんどである。上記、文化地理学の一分野でもある。

人口地理学


人口問題・人口移動・人口政策などを扱った地理学。単独ではなく、社会地理学や経済地理学の一分野にされることもある。

集落地理学

人間の居住形態である集落というものに対する地理学。大きな括りをすれば、農村地理学や都市地理学もこの一分野である。

農村地理学


農村に関する地理学。集落地理学や農業地理学との連携が大きい。

交通地理学


交通に関する地理学。交通網の発達と立地展開の関係、日々の人々の移動に関する研究などを扱う。計量的に分析することが多く、鉄道網や道路網に対する知識や関心はその前提と見なされている。都市地理学や経済地理学などとの連関が多い。


病理地理学または疾病地理学


伝染病・風土病などの疾病の地理的な分布・伝播を扱った地理学。医学の専門的な知識を求められるため、地理学の一部門でありながら、人文地理学で論じられることは稀である。

言語地理学


言語や方言に関する地理学。方言の分布などを探る。ただし、社会言語学的な性質が強く、人文地理学の一分野と見る論者は少ない。また、議論になることも稀である。

軍事地理学


軍事に関する地理学。第二次世界大戦で地理学の軍事作戦への応用が進み、確立される。


他分野においても、生物学の生物地理学など地理学という名をもつ学問がある。



地誌学


地誌学(地域地理学)は、ある特定された地域内における地理学的事象を自然地理・人文地理両方の見地から研究する学問である。自然地理・人文地理にかかわらず、実際に研究する際は、具体的な地域を選定しなくてはならないため、ひとつの専門分野というよりは地理学の共通基礎部分と認識されている。文学や国際関係学方面の地域研究(学)との共通点もある。



研究方法






地理学では地域差があるものを取り扱うため、地図が必須であるとともに、地図を用いて事象の分析や原因の考察を行うことができる[9][注釈 1]。事物の分布を考察するにあたって、分布図の作成が挙げられる。分布図では、事物の位置や多寡、偏りの程度が表現されるため、分布について深く考察するうえで有効であり、このことによって地理的事象の地域性や一般性の解明につながる[11]。分布の性質を分析してきた研究の代表例として、高橋伸夫は『地理学への招待』にてチューネンの孤立国とクリスタラーの中心地理論を提示している[12]



地理学を学べる日本国内の大学



日本では文学部に設置されている大学が多い[13]が、東日本の国公立大学では理学部に設置されていることも多い[14]。この他教育学部に設置されている大学もある[14]。ただし、文学部設置の大学でも自然地理学の研究も行われているうえ、理学部設置の大学でも研究や教育が自然地理学に限定されているわけでもない[13]。また、この他の学部でも地理学に関するコースが存在する大学もある[15]



教育上の問題点



現在の日本の高等学校においては、1989年告示の学習指導要領以降、「地理」が必修でなくなり、「世界史」が必修になった影響で「地理」を選択する生徒が減少し、地理学へ興味・関心を持つ機会が減少している。しかし、「大都市圏への一極集中と地方の過疎化」「農業のグローバル化」「新興国(中国やインド)の発展による世界情勢の変化」「地球温暖化による異常気象・ヒートアイランド現象」「自然災害(地震や津波、洪水)」など地理学がカバーする範囲は極めて広く、大学において「地理学科」や「地学科」という名称でなくても改称したり分野別に再編したりして実質的に地理学教育を行っている学科・専攻は少なくない。


地理学の特徴は「時空間的かつ学際的に地域を理解すること」であり、大学院生や大学教員レベルになると複数の学会に所属している者が多い。近年は GIS を用いた解析や一部モデリングが盛んに行われているほか、社会的課題が複雑化する中において地域を多角的・総合的に理解する学問分野として注目されている。



脚注


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注釈





  1. ^ フンボルトは気象や植生が高度により遷移することを観察し、縦軸を高度、横軸を緯度として垂直分布を図化して表現した。また、世界中の約58地点の年平均気温の情報をもとに等温線をひき、等温線と緯線が平行ではない理由を考察する研究課題を提示した。中村和郎によると、地理学の考察における等値線の導入は非常に有意義なことと言及していて、また等値線図は地形図(標高)や天気図(気圧配置)などでも利用されている[10]




出典




  1. ^ ab公益社団法人日本地理学会『新ビジョン(中期目標)』 (PDF)”. 2018年7月7日閲覧。


  2. ^ “地理学科の内容|文学部|法政大学”. 2018年9月21日閲覧。

  3. ^ abc中村ほか 1988, p. 174.


  4. ^ 野間ほか 2017, p. 212.


  5. ^ 野間ほか 2017, p. 213.


  6. ^ 野間ほか 2017, p. 216.


  7. ^ 中村ほか 1988, p. ii.


  8. ^ 野間ほか 2017, p. 52.


  9. ^ 中村ほか 1988, p. 1.


  10. ^ 中村ほか 1988, p. 7.


  11. ^ 中村ほか 1988, p. 23-24.


  12. ^ 中村ほか 1988, p. 25.

  13. ^ ab野間ほか 2017, p. 24.

  14. ^ ab野間ほか 2017, p. 23.


  15. ^ 野間ほか 2017, p. 25.




参考文献







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    ISBN 4-7722-1227-2。

  • 『ジオ・パルNEO 地理学・地域調査便利帖』 野間晴雄・香川貴志・土平博・山田周二・河角龍典・小原丈明、海青社、2017年、第2版。
    ISBN 978-4-86099-315-3。



関連項目






































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外部リンク



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