言語学
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言語学(げんごがく)は、ヒトが使用する、自然言語や人工言語といった言語の構文[1]や意味などを科学的(ここにおける「科学的」の「科学」には、自然科学だけでなく人文科学や社会科学も含まれる)に研究する学問である。
目次
1 語源
2 目的
3 言語の定義と特徴
3.1 恣意性
3.2 二重性
3.3 転位性
3.4 創造性
3.5 構造依存性
4 主要な研究分野
5 関連分野
6 対象となる言語における主要な対立項
7 言語学の歴史
7.1 19世紀までの言語研究
7.2 近現代
8 参考文献
9 関連文献
9.1 辞典など
10 関連項目
10.1 学問
10.2 学会
10.2.1 総合
10.2.2 言語
10.2.3 分野
10.3 他
10.4 出版社
11 外部リンク
語源
英語 linguistics(言語学)の語源は linguistique(フランス語)、さらにさかのぼるとlingua(ラテン語、「舌、言葉」の意)であり、linguisticsという語は1850年代から使われ始めた[2]。
目的
現代言語学の目的は、ヒトの言語を客観的に記述・説明することである。「客観的に」とは、現に存在する言語の持つ法則や性質を言語データの観察を通して記述・説明するということであり、「記述」とは、言語現象の一般化を行って規則や制約を明らかにすることであり、「説明」とは、その規則・制約がなぜ発生するのかという動機づけを明らかにすることである。
現代言語学は言語の優劣には言及しない。むしろ、言語学においては、あらゆる言語に優劣が存在しないことが前提となっている。そのため、世界の言語はすべて同等に扱われる。かつては言語の史的変化を言語の進化ととらえ、社会・文明の成熟度と言語体系の複雑さを相関させるような視点が一部存在した。しかしその後、いかなる言語も一定程度の複雑さを有していることが明らかとなり、そうした見解は現在否定されている。すなわち、幼稚な言語、高度な言語は存在せず、すべての言語はそれぞれの言語社会と密接に関連しながら、それぞれのコミュニティに適応して用いられている、というのが現在の言語学の見解である。
語学は実用を目的として母語以外の言語を学ぶことであり、言語を学問・研究の対象とする言語学とは別である。ただし、「語学」を言語学の意味で用いる場合もある[3]。
言語の定義と特徴
言語学ではヒトが話す言語(ことば)を取り扱う。そこで、「ヒトが話す言語」とは何かを明確にする必要があるが、学者らによる「言語」の定義の問題は未だに決着していない。
以下に主要と思われる言語の特徴を記す。
恣意性
ソシュールは、「能記」(signifiant) と「所記」(signifié) という2つの概念(シニフィアンとシニフィエ)を用いて、言語記号の音声・形態とその意味との間には必然的な関係性はないという言語記号の恣意性を説いた。
これとはほぼ反対の立場として音象徴という見解がある。これは、音素そのものに何らかの意味や感覚、印象といったものがあり、言語記号はその組み合わせによって合理的に作られているとするものである。しかし、実際にはどの言語にも普遍的な音象徴というものは存在しないため、現在そのような立場の言語研究はあまり行われていない。
二重性
アンドレ・マルティネは言語が単なる音声の羅列ではなく、二重構造を有していることを指摘した。すなわち、文を最小単位に分割しようとした場合、まずは意味を持つ最小単位である形態素のレベルに分割される。そして、形態素はさらに音素に分割される。例えば、日本語の [ame](雨、飴)という語は語としてはこれ以上分解できないが、音素としては /a/、/m/、/e/ の三つに分解される。言語の持つこのような二重構造は二重分節と呼ばれる。動物の発する声にはこうした性質が見られないため、二重分節はヒトの言語を特徴づける性質とされる。
転位性
ヒトの言語は過去に起こった事実や未来のことを表現することも可能である。文字の体系を持っていれば、文字に書き留めることによって、後世に伝えることも可能になる。しかし、動物の場合、餌のありかや敵の急襲を知らせるなど現在のことしか伝達できない。
創造性
ヒトの言語の場合、あらゆる情報を伝えることができる。例えば、初めて会った人から、まだ行ったことのない外国の話を聞かされても理解することができる。しかし、動物の言語の場合、空腹感や幸福感など決まりきったことしか伝えられない。言葉を無限に創造できるのは、ヒトの言語における最大の特徴である。
構造依存性
言語の規則には、例えば「前から3番目の語」というような表層の順序に言及するようなものは存在しない。言語の規則はむしろ、表層にあらわれない範疇、階層、構成素などの構造に言及する。これを構造依存性という。ノーム・チョムスキーはgenerative capacityという概念により、「(ある言語の)文法は、その言語の文ら(「表層」)をweakly generateし、それら文らのstructural descriptors(「深層」)をstrongly generateする」(ここで「文ら」としているのは、原文sentencesの複数形に意味があるため)と述べた。
主要な研究分野
音声学 - ヒトの言語の音声の研究
音韻論 - 音韻体系の研究
音声学が発音時の筋肉の動きや音声の音響学的特性など物理的な対象を研究するのに対して、音韻論ではその言語で可能な音節の範囲(音素配列論)など言語が音声を利用するしくみを研究する。
音声学は、その研究方法、内容などから言語学の本来の研究分野には含まれないとする考えと、これを基礎研究に据え、言語学研究のプロとアマを分けるのが音声学の知識の有無であるとする考えとがある。全ての言語(手話等を除く)は音声に基づいており、音声学の知見が音声以外の研究の幅を左右するとも考えられている。
形態論 - 語構造の研究
統語論 - 文構造の研究- 談話分析
語の成り立ちは形態論で研究し、語が他の語と結合して作る構造は統語論で研究する。統語論が研究対象とするのは文までで、それ以上のテクストや会話などは談話分析で扱う。
意味論 - 意味の研究- 語彙論
- 語用論
意味論が研究対象とする「意味」とは、伝統的に、話者や文脈・状況を捨象した普遍的な語の意味や文の意味(真理条件)に限られてきた。話者の意図は意味論の研究対象ではないと見る場合、これの研究は語用論で行う。
手話言語学 - 世界的に見ても手話は言語学の範囲の及ぶ学術領域と見みなされている。かつて日本の手話言語学者は、手話は音声言語とは形態において異なることから音声言語学とは異なる手法や用語によって研究されるべきであるという立場をとっていた。しかし近年では、手話もれっきとした言語であるとし、音声言語と同様の手法・用語によって説明できるはずであるとする立場が一般的となっている。近年では言語学関連の学会等で音声言語とともに手話言語学者の研究報告がプログラムにのぼることも珍しくない。
関連分野
応用言語学
- 文体論
対照言語学
- 言語類型論
- 心理言語学
- 計量言語学
- 計算言語学
- 比較言語学
- 社会言語学
- 神経言語学
言語人類学
- 民族言語学
対象となる言語における主要な対立項
- 一般言語学と個別言語の研究(英語学、日本語学など)
ソシュール学説
- 社会的なラング (langue) と個人的なパロール (parole)
共時言語学と通時言語学
話し言葉(現代言語学)と書き言葉(文献学)- 記述的と規範的
言語学の歴史
19世紀までの言語研究
古代の言語学者に、インドのパーニニがいる。
西洋における言語研究の始まりは、紀元前にギリシアの哲学者たち(プラトン、エピクロスなど)の間で起こった言語起源論や修辞学にまでさかのぼる。古典ギリシア語の文法書は、紀元前1世紀までに完成し、ラテン語のほか後の西洋の言語の文法学(伝統文法)に大きな影響を与えた。
言語学が大きく飛躍する節目となったのは、1786年のことである。イングランドの法学者ウィリアム・ジョーンズは、インドのカルカッタに在任中に独学していたサンスクリット語の文法が、以前に学んだギリシア語やラテン語などの文法と類似していることに気づき、「これらは共通の祖語から分化したと考えられる」との見解をアジア協会において示した。これが契機となり、ヤーコプ・グリム ら「青年文法家」による歴史的比較言語学がドイツのライプツィヒで興り(19世紀)インド・ヨーロッパ語族の概念が確立した(印欧語学)。
近現代
20世紀に入ると言語学は大きな変動期を迎えることになる。20世紀初頭にスイスの言語学者、フェルディナン・ド・ソシュールの言語学は、通時的な(書き言葉の)研究から共時的な(話し言葉の)研究へと対象を広げた。またソシュールの言語学は、言語学にとどまらない、「構造主義」と呼ばれる潮流の一部にもなった(また言語学においては(ヨーロッパ)構造主義言語学とも)。20世紀以降の言語学を指して、近代言語学と呼ばれることもある。
アメリカの言語学は、人類学者のフランツ・ボアズ のアメリカ州の先住民族の言語研究やエドワード・サピアがさきがけとなった。そこから発展したアメリカ構造主義言語学(前述のヨーロッパ構造主義言語学との関連は薄い)の枠組みは、レナード・ブルームフィールドによって確立された。
20世紀後半、ノーム・チョムスキーの生成文法は、以上で延べたような近代言語学からさらに一変するような変革をもたらし、現代言語学と言われることもある。後述する認知言語学からは批判もあるなど、「チョムスキー言語学」が全てではないが、現代の言語学においてその影響は大きい。
また20世紀後半には他にも、マイケル・ハリデー(en:Michael Halliday)らの機能言語学(en:Systemic functional grammar)や、ジョージ・レイコフらの認知言語学など、異なったアプローチも考案された。
参考文献
^ syntax
^ McArthur, Tom (1996), The Concise Oxford Companion to the English Language, Oxford University Press (ISBN 0198631367)
^ 語学 - コトバンク
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関連文献
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- 松本 裕治 (2004) 『言語の科学入門』 岩波書店 (ISBN 4000069012)
- 丸谷 満男、高尾 典史、石馬 祖俊 (1994) 『言語の科学』 晃洋書房 (ISBN 4771007330)
山梨 正明、有馬 道子 (2003) 『現代言語学の潮流』 勁草書房 (ISBN 432610144X)- 湯川 恭敏 (1999) 『言語学』 ひつじ書房 (ISBN 4894761130
風間 喜代三、松村 一登、上野 善道、町田 健 (2004) 『言語学』 第2版 東京大学出版会 (ISBN 4130820095)
辞典など
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- 郡司 隆男、西垣内 泰介 (2004) 『ことばの科学ハンドブック』 研究社 (ISBN 4327401366)
関連項目
学問
- 人文科学
- 語学
- 文学
- 修辞学
- 民俗学
- 訓詁学
学会
総合
- 表現学会
- 言語人文学会
- 日本言語学会
- 英米文化学会
- 全国大学国語国文学会
言語
- 訓点語学会
- 日本英語学会
分野
- 日本機能言語学会
- 日本通訳翻訳学会
- 英語コーパス学会
- アメリカ言語学会
他
- 言語教育
- 言語学研究
- 言語学研究会
- 言語学大辞典
- 言語学者の一覧
- 学問の一覧
- 日本学術振興会
- 国際交流基金
- 国際言語学オリンピック
出版社
- おうふう
- 勁草書房
- 研究社
- ひつじ書房
- くろしお出版
- 三元社
- 大修館書店
- 岩波書店
- 朝倉書店
- ミネルヴァ書房
- むぎ書房
- 東北大学出版会
- 名古屋大学出版会
- 東京大学出版会
- 京都大学学術出版会
- 九州大学出版会
外部リンク
- Columbia University Press (2003), "linguistics" in the Columbia Encyclopedia, 6th ed., 2001.
- Encyclopædia Britannica, Inc. (2004), "linguistics" in Britannica Concise Encyclopedia Online Article.
- Study and Research in Linguistics: A forum in Linguistics from China
- 日本言語学会
- 日本語学会
- アメリカ言語学会
- 言語系学会連合
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