アナフィラキシー
Anaphylaxis | |
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アナフィラキシー患者の背中にできた発疹 | |
分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 救急医学 |
ICD-10 | T78.2 |
DiseasesDB | 29153 |
eMedicine | med/128 |
MeSH | D000707 |
アナフィラキシー(英: anaphylaxis)とは、原因物質(抗原)により感作される準備期間の後、その原因物質が再び生体に接触することで引き起こされる免疫学的機序による全身的なアレルギー反応[1]。ギリシャ語である「ανα ana(反抗して)」と「φύλαξις phylaxis(防御)」を語源とする[2]。
アナフィラキシーによるアレルギー反応をアナフィラキシー反応(アナフィラキシーショック)という。一方、免疫学的機序によらず過去に原因物質(抗原)に接触したことがなかった者にも同じような症状が生じることがあり、このような非免疫学的機序によるものはアナフィラキシー様反応というが、アナフィラキシー反応とアナフィラキシー様反応の区別は実際には困難なことが多く、症状や対処法もほぼ共通することから区別されずに扱われることが多い[1]。
アナフィラキシーは、アレルゲンの摂取、皮膚への接触、注射や時に吸入により惹起され得る[3]。
目次
1 発生機序と要因
2 診断基準
3 症状と対処
3.1 アナフィラキシーへの対応
3.2 アナフィラキシーショック
4 治療
4.1 対症療法
4.2 薬物療法
5 脚注
6 関連項目
7 外部リンク
発生機序と要因
- IgEが関与する免疫学的機序[4]
- 食物
- 刺咬昆虫(ハチ・蟻)
- 薬剤 - β-ラクタム系抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬、生物化学的製剤、造影剤、ニューキノロン系抗生物質など
- その他 - 天然ゴムラテックス(ラテックスアレルギー)、職業性アレルゲン、環境アレルゲン、食物+運動(食物依存性運動誘発性アナフィラキシー)、精液など
- IgEが関与しない免疫学的機序[4]
- 薬剤 - 非ステロイド性抗炎症薬、生物化学的製剤、造影剤、デキストラン
- 薬剤 - 非ステロイド性抗炎症薬、生物化学的製剤、造影剤、デキストラン
- 非免疫学的機序(肥満細胞を直接活性化)
- 身体的要因 - 運動、高温、低温、日光など
- アルコール
- 薬剤 - オピオイド
- 突発性アナフィラキシー
- 肥満細胞症 - クローン性肥満細胞異常
- これまで認識していなないアレルゲンの可能性
診断基準
- アナフィラキシーガイドラインによる診断基準[4]、
以下の3項目のうち、いずれかに該当
- 皮膚症状(全身の発疹、掻痒または紅潮)または、粘膜症状(口唇、舌、口蓋垂の腫脹)のいずれかが存在し急速(数分〜数時間以内)に発現する症状で、かつ下記 a. b. の少なくとも1つを伴う。
- a. 呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)
- b. 循環器症状(血圧低下、意識障害)
- 一般にアレルゲンとなりうるものへの曝露後、急速(数分〜数時間以内)に発現する以下の症状のうち、2つ以上を伴う。
- a. 皮膚、粘膜症状(全身の発疹、掻痒、紅潮、浮腫)
- b. 呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)
- c. 循環器症状(血圧低下、意識障害)
- d. 持続する消化器症状(腹部疼痛、嘔吐)
- 当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分〜数時間以内)血圧低下。
- 収縮期血圧の定義:平常時血圧の70%未満または、下記
- 生後1カ月から11カ月 < 70 mmHg
- 1歳から10歳 < 70 mmHg + ( 2 × 年齢 )
- 11歳から成人 < 90 mmHg
- 生後1カ月から11カ月 < 70 mmHg
- 収縮期血圧の定義:平常時血圧の70%未満または、下記
※ アナフィラキシーガイドラインによる診断基準より引用し改変
実際には、年齢・性別を考慮し「喘息」「パニック発作」「失神」や類似疾患との鑑別が行われる[4]。
症状と対処
症状・症候には個人差があり、同一患者でも発症毎に異なる場合がある[4]。アナフィラキシーの症状は、IgEと他のアナフィラトキシンの反応が関与する。これらの物質は肥満細胞からヒスタミンや他の媒介物質(メディエーター)を遊離(脱顆粒)させ、さらにヒスタミンは細動脈の血管拡張や肺の細気管支の収縮、気管支痙攣(気管の収縮)を引き起こす。
ヒスタミンや他のメディエーターは身体の別器官の組織で遊離されるが、これらが(血流等を介して他の部位に運ばれ)気管収縮とこれに伴う喘鳴や呼吸困難、そして胃腸症状(腹痛、さしこみ、嘔吐、下痢など)を引き起こす。ヒスタミンは血管拡張(これに伴う血圧低下)と血流から組織への体液漏出(これに伴う血流量低下)を引き起こし、これらが影響してショック症状を呈する。体液が肺胞に漏出することもあり、これが肺水腫を引き起こす。
アナフィラキシーで見られる症状には多尿、呼吸困難(呼吸促迫)、低血圧、脳炎、失神、意識不明、蕁麻疹、紅潮、流涙(血管性浮腫やストレスによる)、嘔吐、掻痒、下痢、腹痛、不安、血管性の浮腫(口唇、顔面、首、咽喉の腫脹などがある。悪寒や戦慄などはアナフィラキシーショックの前駆症状である場合がある[5]。。
致死的反応となる呼吸停止・心停止までの中央値は、薬物 - 5分、ハチ - 15分、食物 - 30分 との報告がある[4]。
アナフィラキシーへの対応
アナフィラキシーの症状は非常に多彩で、全身にあらゆる症状が出現する可能性があり、またアナフィラキシー患者の90%に皮膚症状があり、粘膜・呼吸器・消化器症状が現れる傾向がある[6]。アナフィラキシーやアナフィラキシー様反応は、呼吸困難、急激な血圧低下、心停止、意識消失などの症状が現れることがあるため並行して対処が必要となる[7]。
アナフィラキシー反応またはアナフィラキシー様反応の発現に対しては、アドレナリン(エピネフリン)の投与、気道確保、酸素投与などが行われる[8]。
アナフィラキシーへの対応のため学校などでは予めマニュアルが定められ、例えば群馬県の「アレルギー疾患用学校生活管理指導表 群馬県版」では発症の状態観察により、軽症・中等症では患者の安静と内服薬の服用などで対処、重症まで進行するようであれば緊急要請として通報し、救急車を呼び、またエピペン携行薬を所持している場合は躊躇せず速やかに使用するように定められている[6]。また、県教育委員会の配布による食物アレルギー、アナフィラキシー対応の手引に従うように指導されている[6]。
軽症 - 各症状はいずれも部分的で軽く、症状の進行に注意を払いつつ、安静にして経過を観察、誤食事用の抗ヒスタミン薬などの処方薬があれば内服させる。
中等症 - 全身性の皮膚・粘膜・呼吸器・消化器症状が出現。抗ヒスタミン薬、ステロイド薬を内服させ、医療機関を受診する必要がある。
重症 - 全身性の皮膚・粘膜・呼吸器・消化器症状が増悪し強いアナフィラキシー症状となり、プレショック・ショック状態などに陥り意識がなくなる。救急車を要請して、緊急に医療機関を受診する必要があり、エピペン(自己注射剤)があれば速やかに使用する。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックはI型アレルギー反応の一つである。外来抗原に対する過剰な免疫応答が原因で、好塩基球表面のIgEがアレルゲンと結合して血小板凝固因子が全身に放出され、毛細血管拡張を引き起こすためにショックに陥る。
ハチ毒(Bee venom)・食物・薬物等が原因となることが多い。アナフィラキシーの症状としては全身性の蕁麻疹と以下のABCD(喉頭浮腫、喘鳴、ショック、下痢、腹痛)のうちどれかがある。なお、アナフィラキシーショックは二峰性の経過をとるものがしばしばみられるので、院内で経過観察(約8時間、重症例では24時間)をしなければならない。アナフィラキシーはIgEを介して肥満細胞が脱顆粒して起こるが、IgEを介さず肥満細胞が脱顆粒を起こすアナフィラキトイド(類アナフィラキシー反応)と呼ばれる反応もある。類アナフィラキシー反応として造影剤アレルギーなどが有名である。その他、アレルゲン免疫療法[4]の副作用、ラテックスアレルギー・口腔アレルギー症候群・食物依存性運動誘発性アナフィラキシーなど、特異的なアレルギーがあり、アナフィラキシーショックを起こす場合がある。
治療
アドレナリンの筋肉注射(商品名:エピペン[9])が有効である。アドレナリン(ボスミン0.3mg)筋注(皮下注では血管が収縮するので作用が遅くなる)はβ2作用で肥満細胞の脱顆粒を抑制する働きがある。アドレナリンは10分ほどで効果が出るはずなので、反応がなければ2回か3回繰り返すことが必要な場合もある。また、高血圧でβブロッカー(まれにαブロッカーやACE阻害薬でも)を服用している患者ではアドレナリンが効かないことがあるので、この場合はグルカゴン1mgから5mgが効果があり、使用される(交感神経を介さず、cAMPを増やすことで効果が出る)。ステロイドや抗ヒスタミン薬は4時間くらい効果がでるのにかかるので救急では使えずに注意が必要であるが、遷延性や二峰性の後半の反応を予防するためにステロイドを用いることはある。また、鯖を食べた場合にアナフィラキシーのような症状を示す場合もあるが、鯖の場合はヒスタミンを含んでおり肥満細胞を介するものではないので、抗ヒスタミン薬やステロイドで充分である。
対症療法
医療従事者による気道確保(気管挿管)。
薬物療法
- アドレナリン
- アドレナリン(ボスミン0.3mg)筋注を行って反応が悪ければ10分から15分ごとに追加投与を行い、最大1mgまで投与する。小児の場合は0.01mg/kgずつ行い、最大0.3mg/kgである。数リットルに及ぶ十分な補液が必要なこともある。
- 抗ヒスタミン薬
- 全身性蕁麻疹、血管性浮腫の場合はH1ブロッカー特にジフェンヒドラミンを1mg/kgか2mg/kg、4時間から6時間ごとに点滴する。H2ブロッカーであるラニチジンを併用することも多い。
- β作動薬
- 気管支痙縮に対しては気管支喘息と同様にβ刺激薬を投与する。サルブタノールで2パフか3パフの吸入を行う。
- ステロイド
ヒドロコルチゾンを用いる場合が多い。6時間ごとに1mg/kgか2mg/kg投与する。また、プレドニンを30mg/kgから40mg/kg、3日ほど内服することもある。- グルカゴン
- βブロッカーを内服している場合はアドレナリンの効果不十分のため、用いることがある。1Aで1mgであるため、生理食塩水に溶解して1mgの急速静注を行う。効果を見ながら5分ごとに1mgの追加投与を行っていく。次いで1mg/hから5mg/hで持続投与を行う。副作用としては吐き気やめまい、低カリウム血症、血糖異常などが知られている。
脚注
- ^ ab桑鶴良平 監修 『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』 ピラールプレス、2010年、15頁。
^ "Anaphylaxis." Etymology. Oxford English Dictionary. http://dictionary.oed.com.
^ “Anaphylaxis”. Health. AllRefer.com (2002年1月17日). 2007年2月20日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年1月29日閲覧。
- ^ abcdefgアナフィラキシーガイドライン (PDF) 日本アレルギー学会
^ 桑鶴良平 監修 『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』 ピラールプレス、2010年、25頁。
- ^ abc (PDF) 緊急時(アナフィラキシー)の対応. 群馬県. http://www.pref.gunma.jp/contents/000257107.pdf.
^ 桑鶴良平 監修 『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』 ピラールプレス、2010年、23頁。
^ 桑鶴良平 監修 『知っておきたい造影剤の副作用ハンドブック』 ピラールプレス、2010年、23頁。
^ エピペン注射液 マイラン製薬
関連項目
- 毒
医療識別票 - 意識不明時に医療関係者にアレルギーを持つことを伝えられる。
外部リンク
アレルギー疾患の児童生徒対応マニュアル 横浜市教育委員会 2011年6月 (PDF) - 学校児童のアトピー、アナフィラキシーなどのアレルギー疾患の解説と、発生した場合の対処法、食物アレルギー以外の留意点、教職員の役割分担について。
小学校給食における食物アレルギー対応の手引き 改訂版 町田市教育委員会 2013年10月 (PDF) - 食物アレルギーの基礎知識、学校側の管理・指導、給食提供時の注意点、アナフィラキシー発症時の緊急対処を含む対応と対応例、食物アレルギー児童の把握と対応実施までの手引、資料集- 高井彩也華、安村涼、山口さやか ほか、納豆による遅発性アナフィラキシーの 1 例 西日本皮膚科 2017年 79巻 5号 p.455-458, doi:10.2336/nishinihonhifu.79.455 (要読者認証)