四輪駆動
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四輪駆動(よんりんくどう)とは、自動車などの駆動方法の一種。4つある車輪すべてに駆動力を伝え、4輪すべてを駆動輪として用いる方法のこと。
目次
1 呼称
2 概要
3 一般的な長所・短所
4 歴史
5 四輪駆動の種類と機構
5.1 パーマネント式(狭義)
5.2 フルタイム式(センターデフ式)
5.3 パートタイム式
5.4 フルタイム・パートタイム複合式
5.5 オン・デマンド式/スタンバイ式(パッシブ式)
5.6 トルク・スプリット式/アクティブ・トルク・スプリット式/アクティブ・オン・デマンド式
5.7 アクティブ・トルク・ベクタリング式
5.8 電気式
5.9 動力分散型
6 脚注
7 関連項目
呼称
四輪駆動の自動車を四輪駆動車(よんりんくどうしゃ)と称し、略称は四駆(よんく)。英語の four-wheel drive の略で4WD、または all-wheel drive(総輪駆動/そうりんくどう、全輪駆動/ぜんりんくどうとも称する) の略でAWD。欧州では、四輪のうち、四輪ともが駆動輪という意味で4x4( four-by-four、フォーバイフォー)とも呼ばれる。一般的な自動車が四輪であることから四輪駆動と呼び、五輪以上を装備する自動車では総輪駆動または全輪駆動 (AWD) と呼ぶことが多く、欧州流の表記では6x6、8x8などとなる。アメリカ国内にかつて「Four Wheel Drive」社が存在し、商標登録されていたことから、欧米中心に「AWD」と表すことが多くなった。なお、日本語において「四駆」、「4x4」、「4WD」等の語は、駆動方式としてのAWDの意味のみならず、特にクロスカントリー車やSUVと言う語の浸透していない世代の人において、「ジープ」に代わる車両それ自体を指す言葉として使用されることもある。
概要
- 自動車に四輪駆動を採用する目的は大きく分けて2つある。立往生の発生しやすい雪道や泥濘地などの悪路を走破するためと、ハイパワーエンジンの強大なトルクをより路面に伝えるため。一般的な乗用車や商用車、軍用車、土木・建築用機械などは前者の理由である。日本には、豪雪地域に人口の密な地域が存在し、雪質も湿っていて重いため、四輪駆動の需要が存在する。メーカーは四輪駆動を、セダン、およびミニバン、小型車、軽乗用車など広く設定し、積雪地(寒冷地)向けの需要を満たしている。一方、海外では降雪量の多い地域に主要都市は少なく、雪質は乾燥してサラサラしている上、平坦な道の移動が多い。また北欧ではスパイクタイヤが認可されており、4WD車の需要は日本に比べ限定的である[1]。
- 四輪駆動を採用する二つ目の理由、スポーツ性を重視したハイパワーな車種に搭載される場合も近年増えてきている。アウディがクワトロで世に問い、他のメーカーが追従し、現在の日産・GT-Rやランボルギーニの各モデルなどに至る発想である。後述の「SPYKER」はこのスポーツ性を重視した最初の四輪駆動自動車の一つである(ラリーカーの四輪駆動化についてはグループBを参照)。
- 制動性能は二輪駆動と比較しても同等以下で、却って重量が重くなり制動距離が延びるデメリットも生じる。
- エンジン搭載位置はほとんどがフロントエンジンで前車軸がエンジン重心よりも後ろにあるもの多い。中には、リアエンジン4WDはポルシェ・911、スバル・サンバー(3代目 - 6代目)、シュタイア・プフ社のハフリンガーなどに存在する。またミッドシップ4WDは、三菱・パジェロ、トヨタ・エスティマ(初代)、ホンダ・アクティ、スズキ・エブリィ(3代目)、ランボルギーニ各モデル、ブガッティ・ヴェイロン、アウディ・R8 (市販車)などの例がある。
一般的な長所・短所
- 長所として二輪駆動と比べると、牽引力は大きく向上する。特に、駆動力がタイヤのグリップ力(路面との摩擦力)を上回り、空転が発生しやすい路面では、各タイヤのトレッドにかかる駆動力を分散させることができる。このため、悪路での脱出性や高速走行性に優れる。同様に、エンジンブレーキによる制動力も四輪に分散されるため、ホイールロック(タイヤの滑走)までの限界が高く、ロックからの回復も早いという利点がある。
- 短所として二輪駆動に比べて、駆動系が追加されるので構造が複雑で製造・維持のコストが高くなる。また重量と抵抗が増えるため燃費は悪化する。デフを内蔵するライブアクスルでは、ばね下重量も増加し、路面追従性や乗り心地にデメリットを生じる。さらにドライブシャフトやギアの追加は騒音面でも不利となる。
- 車体が旋回する際、外側と内側のタイヤに回転差が発生するが、一般的な自動車はデファレンシャルギア(デフ)を備えており、エンジン出力を2つの異なった回転速度に振り分け、駆動輪がスリップを起こすことを防いでいる。二輪駆動車は左右一対の駆動輪のためにデフを1つ備えているが、四輪駆動車では前輪の一対および後輪の一対のために少なくとも2つ必要になる。さらに前輪と後輪の間でも内輪差が生じるため、エンジン出力が前後のデフに向かう前に、前後輪の回転差を吸収するためのセンターデフを備えているものもある。この場合は、1つの出力を4つの異なった回転速度に振り分けていることになる。
- センターデフを備えない車種では、旋回時に前後輪の内輪差によってどちらかが強制的にスリップを起こすため、ブレーキが掛かったような現象に見舞われ、マニュアルトランスミッション車では低速時にエンストすることもある。これはタイトコーナーブレーキング現象と呼ばれる。また、低速で小回りなどをした場合は小刻みにスリップが発生するため、車体全体が不快な振動に見舞われることがある。広く知られるジープのように、通常は二輪駆動で、滑りやすい路面など必要時にのみに四輪駆動に切り替えるパートタイム方式の四輪駆動車も存在する。この方式ではセンターデフを備えないので、四輪駆動での走行は滑りやすい路面であることが前提となってくる。
歴史
- 最初の四輪駆動車は、1805年にアメリカメリーランド州のオリバー・エバンスが製作した浚渫船(しゅんせつせん)だとされている。浚渫船を製造した工場から陸路を輸送するために、船に車輪が取り付けられ、蒸気機関の動力をベルトで前後輪に伝えることで走行した。それ以降も蒸気機関を使用した四輪駆動車は製造された。1824年にイギリスロンドンでウィリアム・ヘンリー・ジェームズによって作られた蒸気自動車は、四輪それぞれにシリンダーを持ち、デフを用いずに各輪の回転差を吸収するようになっていた。
電気モーターを使用した四輪駆動車も1900年ごろ、フェルディナント・ポルシェによって作られている。この車は、後にインホイールモーターと呼ばれる、各輪のハブに駆動用モーターを内蔵する方式で四輪駆動としていた。
ガソリンエンジンを使用した四輪駆動車は、1902年にオランダのスパイカー兄弟によって作られた「SPYKER」が最初である。この車は、前進3速・後進1速のトランスミッションと、2速のトランスファーおよびセンターデフを介し、四輪を駆動する設計で、現代のフルタイム式四輪駆動車と基本的に同じ仕組みとなっている。
1903年には、オーストリア・ダイムラー社で、四輪駆動装甲車が開発された。この車は装甲と37mm機関砲を装備した砲塔を持ち、前進4速・後進1速のトランスミッションとトランスファーを介して四輪を駆動した。また、フォード・モデルTにおいても1910年代以降に四輪駆動キットが販売され、四輪駆動化された車輌があったが、これは、走破性向上のためというよりも、もっぱら駆動輪である後輪にしか働かないエンジンブレーキを前輪にも作用させるためであった。
第一次世界大戦中、アメリカの自動車会社ジェフリー・モーター・カンパニー(ランブラー自動車の当時の社名)は四輪駆動トラックを設計・製造している。これはクワッド・トラック(Quad Truckまたはジェフリー・クワッド、ナッシュ・クワッド)として知られている。欧州で戦う連合軍に提供され、ジョン・パーシング指揮の下、重量級軍用用途に用いられた。
日本においては1935年(昭和10年)頃、前年に帝国陸軍が依頼し日本内燃機が開発した九五式小型乗用車(くろがね四起)が登場した。九五式小型乗用車はアメリカ軍のジープに先駆けて開発・量産された日本初の実用四輪駆動車であり、1936年(昭和11年)から1944年(昭和19年)まで計4,775台が生産され、日中戦争・ノモンハン事件・太平洋戦争などで偵察・伝令・輸送用に幅広く使用された。
1941年、アメリカにジープが登場した。ドイツ軍のキューベルワーゲン(二輪駆動車。1940年頃登場)に相当する軍用車両として、アメリカ陸軍の仕様に対し各社の試作の中からバンタム[要リンク修正]社の案が採用されたものだった。バンタム社は当然自社での生産を望んだが、実際には生産設備の規模や品質からほとんどがウィリス(英語版)社とフォード社に発注され製造された。ジープは戦場の悪路を走破するための自動車として有益であることが第二次世界大戦で実証され、大量生産を経て連合軍に供給され世界各地を走破した。ジープの活躍はそのため世界各地で注目を呼んだ。日本でも陸軍が南方戦線で鹵獲したバンタム・ジープを日本に持ち帰り、「ボディは似せないこと」という注文付きで製作するようトヨタ自動車に依頼したが、まもなく敗戦となった。
戦後の日本では、民間でも悪路を走破する車の需要が高まったが、当初は軍用車の払い下げや、似せて作った国産ジープ型車両程度の選択肢しかなかった。それでも、戦前(1930年代以前)の自動車しか知らない当時の日本人にとって、ジープの威力は技術や品質は、アメリカの技術的進歩を伝えるものだった。1953年(昭和28年)、三菱・ジープが、ウィリスオーバーランド社との提携で警察予備隊向けにノックダウン生産された。ジープを模倣したトヨタ・ジープ(後にランドクルーザーと改名)と日産・パトロールは、警察予備隊の入札で三菱に破れ、国家地方警察向けや民需の道を開拓した。三菱・ジープは、その後日本で生まれたモデルを加えていき、防衛庁以外にも販路を広げ、独自の進化を遂げながら1998年(平成10年)まで生産された。「ジープ」は小型四輪駆動車全般の代名詞としても使われるようになった。
1970年代前後に相次いで転機が訪れた。1967年(昭和42年)、ホープ自動車が軽自動車(当時は360cc)枠で本格的な四輪駆動車「ホープスター・ON型4WD」を発売した。この車両は後の「スズキ・ジムニー」の前身であり、四輪駆動車=大排気量車という形式に一石を投じた。富士重工業は「ジープより快適で、通年使用可能な現場巡回用車輌」という東北電力の依頼を受け、「スバル・ff-1 1300Gバン」に、日産・ブルーバードのリヤアクスルを装着した「スバル・ff-1 1300Gバン4WD」を製作。1972年(昭和47年)にレオーネ1400エステートバン4WDとして発売され、乗用4WDという新たなカテゴリを築いた。1980年代に入り日本国外では、ラリー競技で四輪駆動として初めて出場したアウディ・クワトロが活躍した。アウディとスバルは共に四輪駆動の乗用車の先駆けとなったが、どちらも縦置きエンジン・前輪駆動の構造を持った車を市販していたため、縦置きのギアボックスから駆動軸を後方に取り出し差動装置と後輪ドライブシャフトを追加するなどの加工で済み、比較的4WD化しやすい構造であった。
1970年代には米国のカウンターカルチャーの影響を受けた日本でアウトドアブームが起こり、四輪駆動車やクロスカントリーカーが流行した。この時点で、後のRVという日本仕様のレジャー車両の概念が形成されはじめた。1984年にはクロカン車としての悪路走破性を保持しつつ乗用車としての扱いやすさを両立させ、乗用クロスカントリー車の先駆けとなった三菱・パジェロが発売され、大ブームを起こした。また、日産のアテーサなどにより、センターデフを持つフルタイム四輪駆動技術が乗用車でも採用されるようになった。現在ではあらゆる車種に四輪駆動車が設定されるようになった。
四輪駆動の種類と機構
パーマネント式(狭義)
永久直結式とも呼ばれる、最も原始的な四輪駆動方式。黎明期の試作的な四輪駆動車や、軍用車両や農耕用車両の一部にのみ見られる。現代の乗用車技術としては採用されない方式である。
- 前後の回転差を吸収するセンターデフを持たないことはもちろん、トランスファーすら持たないか、あるいは、持っていても二輪駆動の状態を選べないため、通常路面での使用や、高速走行にはまったく適していない。
- また、建設機械などでは、前輪と同じ舵角で逆位相に後輪を操舵(四輪操舵)し、前後輪の軌跡を一致させる事で、タイトコーナーブレーキング現象を回避する例も存在するが、極端なアンダーステア特性の為に、スピードの向上には対応出来ない。
フルタイム式(センターデフ式)
パーマネント式(広義)、コンスタント式とも呼ばれる。前後輪を接続する駆動軸の間にセンターデフと呼ばれるデファレンシャルギア(デフギア)を置き、旋回時や、前後輪の回転差を吸収する。常時全輪に適切にトルクを分配するため、高速走行や雨天時の走行における安定性に優れる。
- この方式を採用する黎明期の四輪駆動車は、差動制限を持たない単純なディファレンシャルギアを使用していた。その場合、悪路などで一輪でも空転を始めると、他の車輪には駆動力がほとんど伝わらなくなる。それを回避するために、センターデフに直結機構(デフロック)を備えているものや、リミテッド・スリップ・デフを用いるものが多い。ただし、こうした名称にはメーカー間で統一された定義はなく、後述のスタンバイ方式のように前後の接続にデフギアやトランスファではなく流体クラッチ(カップリング)を用いるものも一般的にフルタイム式と(広義で)呼ばれている。整備などのサービスの現場でも、ギアであれクラッチであれ、前後の接続部分は全てセンターデフと呼んでいる場合があるが、走行性能については大きな差があり、後述のとおりである。
- なお、軍用車両やオフロード志向の強いSUVの一部では、走破性向上のために、センターデフのみならず前後のデフも差動制限したり、直結させることを可能とするものもある。
パートタイム式
セレクティブ式とも呼ばれる。通常は二輪駆動を基本とし、必要時にのみ動力を取り出すトランスファを接続し、四輪駆動に切り替える方式である。これは、タイトコーナーブレーキング現象の発生や、ハンドリングや燃費の悪化などの多くの不具合を回避し、舗装路面でも使える車両とするのに必須でもあった。また自動車製造上、もともとの2WD車両に、後付け構造で4WDにできる方式として、今も実用的で採用車種は多い。
- パートタイムの車両にはセンターデフは無く、四輪駆動では前後の回転差は全く吸収されず、タイヤと路面の間での強制的なスリップを発生することで回転差を吸収する。つまり、四輪駆動走行は、滑りやすい悪路であることが前提となる。
- 仮に、パートタイムの四輪駆動で乾いた舗装路などを走行するとタイヤと路面の摩擦力が大きくタイヤスリップが発生できず、タイトコーナーブレーキング現象やトルク循環が発生する。駆動系を破損・焼損する可能性も高く注意が必要である。前後のタイヤ径が異なる場合にもトルク循環が発生する。カタログでのタイヤサイズが同じで、モデル名が異なる程度(トレッドパターンや僅かな直径の違い)でも、タイヤの摩耗度が見てわかる程度違っていても起こる。また、ハンドル舵角によらず非常に高い直進性をもつことになる。車両の操縦性や安定性が大きく損なわれることに大きな注意が必要である。二駆と四駆の切り替えはステアリングを中立にしての低速度、または停止状態で行うことが推奨される。このような車種は、車内にコーションプレートが取り付けられており、これらの旨が注意書きされている。
- 悪路での使用を前提とするなら、比較的機構が簡単で信頼性が高くパーマネント式やセンターデフ式のデフロック状態の利点が得られるため、砂地、泥濘、岩山など、過酷なオフロード走行クロスカントリーやスタックからのリカバリーで用いるのが有効である。そういう本格的オフロード走行を前提としていないとメリットが少ないため、乗用車において過去に採用例があったが、今はほぼ廃れている。
- また、フリーハブなどを用いて従駆動輪を機械的に断続することも一般的で、マニュアルハブ、AUTOフリーハブを持つ車両が多い。ランドローバーシリーズ I のように、ワンウェイクラッチなどにより、前進時にのみ四輪駆動になる方式もある。
フルタイム・パートタイム複合式
パートタイム式の切り替え式トランスファーと、フルタイム式のセンターデフの双方を搭載しており、フルタイム式としてもパートタイム式としても使えるというものである。二駆での省燃費、センターデフによる駆動力を配分しての安定した走行、前後直結での悪路走破性、いずれのメリットにも与かることができるようにしたもの。
- 、駆動配分方式などに差異があり、ジープのセレック・トラックでは、トランスミッション直後にビスカスによる配分変更、そしてトランスファーを持つというデファレンシャルのない方式を採用。三菱自動車のスーパーセレクト4WDでは、トランスミッション直後にデファレンシャル、そのあとにチェーンによるビスカスバイパスと、トランスファを持つ方式。トヨタのマルチモード4WDでは、スーパーセレクト4WDと同じ順だが、バイパスせずに配置する。いずれも、ラダーフレームやリジッドアクスルを備える本格的クロスカントリー車ではあるが、乗用車パーツを流用し乗り心地や装飾に乗用車テイストを持たせたRVに採用されている。
- 二重、三重の装備となり、重量がかさむと言う欠点があるが、車格の大きなクロスカントリー車では、元々トランスファーにローレンジ切り替えを受け持つ副変速機(※CVTの燃費向上用のものではなく、悪路走破用のもの)を持つため、センターデフを持つことによるトランスファケースの大型化や、それに伴う重量増加は、走行性能上さほどデメリットとはならない車種に採用されている。
オン・デマンド式/スタンバイ式(パッシブ式)
パートタイム式には、二駆と四駆の切り替えに戸惑うユーザーも多く、また直結状態に気づかないまま舗装路で高速走行をするなどで車を壊したり火災を起こしたりするトラブルも少なくなかった。そこで、切り替え操作を必要せず、自動化を図ったオン・デマンド式が考案された。センターデフの代わりに流体クラッチ(流体継手、単にカップリングとも呼ばれる)を持ち、通常は前後どちらかの主駆動輪で走行し、主駆動輪と残りの二輪(従駆動輪)に回転差が生じると、従駆動輪にも駆動力を自動的に伝達する方式。従駆動輪の働きは補助的であり、長時間や強い駆動力の伝達には不向きである。必要となってから駆動配分を行うため、パッシブ(受動)式とも呼ばれる(実際にはカップリングは高粘度のオイルで満たされた湿式クラッチなので完全に切れることはなく、従駆動輪にも常にある程度のトルクが掛かっている)。従駆動輪の連結を切断する必要がなく、4WD切り替えスイッチなどはほとんど設けられない。
- ビスカスLSD付センターデフ方式と混同されがちであるが、長時間の耐久性や駆動力配分でまったく別の動作を示すもので、センターデフを持たないこのスタンバイ方式のほうが機構的に単純である。頑丈な円筒形ケースに多板クラッチとシリコーン樹脂を封入し、前後輪の回転差で発生する攪拌熱によるシリコンの膨張で多板クラッチを圧着し、差動を制限するビスカスカップリングをリアデフの前のプロペラシャフトに挿入した方法である。電子的な制御用のデバイスが一切不要で、特にフォルクスワーゲンが採用した初期の大型のものは、レスポンスや効きも申し分ない物であった。その後、ビスコドライブ社への特許料が不要で、なおかつ製造も簡単で安価なトリブレード(3葉プロペラ)式やデュアルポンプ式の流体クラッチが登場したが、総じてレスポンスが悪く、繋がりが唐突であるなど、洗練度にも欠けるものであった。
- 特に後者のスタンバイ式4WDは、悪路で滑って後輪が駆動するまでにはっきりとラグがあり、コーナーなどでフロントが滑ったあげくリアに駆動力が加わり車体の大きな動揺、スピンに陥ることもしばしばあった。悪路走破性において実際にメリットがない場面も多く「無い方がマシ」「なんちゃって4WD」などとと揶揄されることも多い。現在、普通車以上のカテゴリでの採用は珍しくなったが、ケース内圧力を高めるなどの改善を図りつつシステムの軽さというメリットを生かし、排気量1500cc未満のコンパクトカー・軽自動車では多く採用されている。
トルク・スプリット式/アクティブ・トルク・スプリット式/アクティブ・オン・デマンド式
オン・デマンド式の発展形で、同様に従となる方の駆動軸に流体継ぎ手のクラッチ機構を持つが、電子制御のポンプによりクラッチケース油圧の増減をコントロールし、前後駆動力配分をアクティブに制御する方式を用いるもの。
- 従来のオン・デマンド(スタンバイ)式は、機械的に回転差が生じてから後輪に駆動力が配分するのに対して、各ホイールの回転差やハンドル切れ角、スロットル開度、Gセンサーなど車両走行状況を電子的に演算して、滑りを予測して駆動するため、より実走行状況に応じた走破性・安定性を獲得することができた。また、発進やわずかなハンドルの回転に際しても駆動コントロールがプログラムされているものも多い。加えて、運転者のほうでも、路面状況による自動演算の傾向を選択できるようにしている場合も多く、乾燥路、雨天路、凍結路などのモード選択が一般的である。
- 代表的なものとして、トヨタのダイナミック・コントロール、日産のオールモード4×4、ホンダのインテリジェント・コントロール・システム,VTM-4、スバルのACT-4、三菱のAWC、スズキのALL GRIP、BMWのxDriveなどが挙げられる。またスウェーデンのハルデックス・トラクション社製のアクティブ式システムは評価が高く、VW系、ボルボ、フォード、GM系といった海外他社のメーカーで採用されている[2]。
- また、2WDとの切り替えにおいても、トランスファ切り離しなどではなく、電子制御のスイッチで行う方式をとるものがほとんどでもある。また、車種によっては、2WDの切り替えスイッチを設けないものもある。
アクティブ・トルク・ベクタリング式
アクティブ・トルク・スプリット式の発展形で、前後駆動力配分のアクティブ化に加え、ヨーコントロールデフを組み合わせ左右の車輪間でも駆動力を電子的に可変配分させる高度な四輪駆動システム。
- 前後左右の駆動力を自在に可変配分制御することによって、旋回中にヨー・モーメント(旋回力)を強制的に発生させることもでき、従来型の四輪駆動システムが物理的な障壁として抱えていた旋回中の走行特性の安定低下という弱点を克服した。さらに、旋回特性を積極的に制御することもできるようになり、アクセル量の制御であるトラクションコントロールシステム機能や、個別ブレーキ制御である横滑り防止装置システムとも合わせ、総合的な制御を行うことで、後輪駆動車に勝る旋回性能を獲得した。制御プログラムによって、様々な特性を付与させることができ、スプリット・ミュー路面などの不整地走行においても優れた走破性を発揮させることも可能である。三菱自動車工業のS-AWC(Super All Wheel Control)が2001年三菱・ランサーエボリューションシリーズの通称エボ7より採用され、先鞭をつけた。ホンダではセンターデフを用いず流体継ぎ手のみで前後を、左右には遊星ギアによるディファレンシャルを用いて、それぞれの駆動をアクティブ(状況に応じて先んじて電子制御)化したSH-AWDとよぶシステムをレジェンドやアキュラで2004年に採用した。BMWやアウディなどのメーカーも追従して左右のアクティブデフシステムを採用してきている。
電気式
エレクトリック4WDなどと呼称される。エンジンによる駆動軸の他に、モーターでもう一方の車軸を駆動させる方式である。初期は生活4WDとしてコスト面から採用された日産のe-4WDのように、低μ路での発進時のアシストを主眼とした低出力(5psほど)の簡易的なものであったが、強力なモーターとバッテリーを備えるハイブリッド車が一般化し、それが標準装備になっていくであろう今後は主力方式の一つになっていくと期待されている。
- 現在、日本国内で販売されている車両の『e-4WD』システムはオートマチックトランスミッションとの組み合わせが前提だが、エンジン駆動軸の回転数もしくはそれにかかるトルクに応じて電動軸の出力を制御すればよく、必ずしもマニュアルトランスミッションとの組み合わせは不可能ではない。
動力分散型
駆動する一つ一つの車輪、または前後の車軸ごとに動力源を取り付けたもの。
内燃機関全盛だった20世紀においては主流にはなりえなかったが、それでも歴史は古く、フェルディナント・ポルシェによって試作されたモーター駆動の車両が1900年のパリ万国博覧会に出品されている。
- 出力がほぼそのままタイヤの駆動力となることからエネルギー損失が少なく、4輪の動力配分を自由に決められる反面、既存のディーゼルエンジンやガソリンエンジンの場合、小型化に限界があり、また部品点数が多くなる、排気処理が面倒、スロットル動作の同調に高度な制御が必要なことから、実験的に作られた車両程度しか存在しなかった。しかし電気自動車の場合は排気が無く、電力は配線を延長すれば良いだけなので、損失が少なく、室内が広く取れる点からも有利である。三菱自動車のランサーエボリューションMIEVや、「8輪」駆動車ではあるがエリーカがこの方式を採用している。その後、MIEVのシステムを市販化した三菱・アウトランダーPHEVにおいて、前後の二つのモーター駆動を動的に制御し、さらに、後輪の左右駆動力の差動をAYCで制御した「S-AWC」機構を搭載した。詳しくは、S-AWCの項を参照。
- 内燃機関を用いたものでは、ヒルクライムなどの競技用車両にツインエンジンの例があるが、市販車ではシトロエン・2CV 4x4、別名「サハラ」がほぼ唯一と言える存在である。本来2CVのエンジンとトランスアクスルはフロントに収まっているが、それと同じものをもう一組、リアのトランクをつぶして押し込んだものである。二組の連携は単純で、スロットルはワイヤー、トランスミッションはシフトリンケージでつながれているだけで、それ以外では二つのエンジンは独立しており、メインスイッチが二つ備わり、どちらかひとつのエンジンだけでも運転が可能であるなど、駆動力確保はもちろんのこと、砂漠などでの冗長性確保の意味合いが強い設計と言える。一方、シトロエン・メアリ 4x4 は、トランスファーと副変速機を持つ一般的なパートタイム4WDである。
脚注
^ 世界有数の豪雪地帯を抱える日本の風土が育てた「4WD」の選び方 2016.2.22 森口将之
^ 輸入車のフルタイム4WDってどうなの? さまざまな制御で個性はあるか 2017.10.03 / エンタメ ベストカーWeb編集部 ベストカーWeb編集部
関連項目
- 六輪駆動
- 副変速機
- オフロード
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