ニート
ニート(イギリス英語: Not in Education, Employment or Training, NEET)とは、就学・就労・職業訓練のいずれも行っていないことを意味する用語である。日本では、15〜34歳までの非労働力人口のうち通学・家事を行っていない者を指しており、「若年無業者」と呼称している[1]。
目次
1 概要
1.1 「ニート」という用語について
1.1.1 ネオニートの定義
1.1.2 呼称変更の取り組み
2 日本における定義
2.1 厚労省と内閣府による二重基準問題
3 実態に関する調査
3.1 推移
3.2 最終学歴
3.3 求職活動をしない(できない)理由
3.4 生活状況
4 ニートに対するイメージ
4.1 就労意欲
4.2 『ネット右翼』との関連性
5 対策・支援
5.1 課題・問題点
5.1.1 「ニート利権」問題
5.1.2 高額な料金負担
5.1.3 強引なアプローチ・実力行使
5.1.4 ニートの親への家庭訪問
6 ニートに関する発言・見解
6.1 批判
6.2 擁護
6.3 提言
6.4 揶揄
7 世界各国の状況
7.1 欧米
7.2 韓国
7.3 中国
8 脚注
9 参考文献
10 外部リンク
概要
この節の加筆が望まれています。 |
元々はイギリスの労働政策において出てきた用語で、1999年に同国の政府機関・社会的排除防止局が作成した調査報告書『Bridging the Gap』の中にある一文「Bridging the Gap: New Opportunities for 16-18 years olds not in education, employment or training」(日本語訳「ギャップを埋める:教育、雇用、職業訓練に参加していない 16〜18歳の若者に対する新しい機会」)の「not in education, employment or training」という部分の頭文字を取り、『NEET』と略したものが始まりである[2][3][4][5]。
「ニート」という用語について
日本では、2003年に厚生労働省所管の特殊法人である日本労働研究機構(略称:JIL、現在の労働政策研究・研修機構)が若者就業支援政策の国際比較研究の中で「ニート」という用語を用いて、イギリスにおける若者支援政策を紹介している[6]。翌2004年、JIL研究員で東京大学社会科学研究所(社研)助教授(いずれも当時の肩書)の玄田有史が、ジャーナリスト・曲沼美恵との共著で『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』を上梓すると瞬く間に話題となり、マスメディアで「ニート」という言葉が多用されるに至った。
一方、東京大学大学院教育学研究科教授で、著書『「ニート」って言うな!』を上梓した本田由紀は、「ニート」という言葉そのものが不適切であり、用語を広めた玄田有史及び玄田の書籍などを厳しく批判している。なお、本田はJILや社研で玄田と同僚であった。本田によると、産経新聞が2004年5月17日付の記事で「働かない若者『ニート』10年で1・6倍 就業意欲なく親に”寄生“」と題してこの書籍を取り上げたことや、テレビ番組に「ニート」として取材を受けた男性が「働いたら負けかなと思っている」などと嘯いていたことが、インターネット上を中心に話題となり、これ以後、日本における「ニート」の概念やイメージが『働く気のない怠け者』『無気力』『心を病んでいる』『親に寄生して生活している』(パラサイトシングル)などといったネガティブなものに色濃く定まってしまい、現在では「ニート」という用語が罵倒語、もしくはそれに準ずる形で用いられているとしている。このことで問題の本質が覆い隠されてしまい、経済や社会の構造的な要因が大きいにも関わらず、「若者の側に問題がある」かのように語られるという問題が起きていると述べており、また、「若者の内面に問題があるから矯正しなければならない」といった政策のミスリードを懸念している[7][8]。
しかしながら本田の思いとは裏腹に、今日において「ニート」は各方面で批判や差別の対象となっている(#ニートに関する発言・見解)。ただ、テレビ視聴者の一部からは、そうした批判に対して懐疑的な見方もなされており、放送倫理・番組向上機構(BPO)などには“ニートバッシング”を批判する意見も寄せられている[9]。また、「ニート」と称してテレビ出演している者については「やらせ」も疑われている[10][11]。
その後玄田は、『ふだんずっと一人でいるか、家族としか一緒にいることのない』という生活を送る20〜59歳の未婚無業者(通学中を除く)を「スネップ」(SNEP、孤立無業者)と定義し、その実態把握と対策の必要性を2012年頃から主張し始めたが[12]、この用語についても新たな偏見や差別を招くとして、批判が起きている(スネップ#用語に対する批判参照)。
ネオニートの定義
具体的にネオニートの定義は定められていないが親や同世代と比較して彼らと同等もしくはそれ以上の収入がある事が前提とされている。アパート物件所有者、株式運用や日雇い派遣で月20日前後働いたとして下手な正社員より多くもらえることをネオニートとしている。
呼称変更の取り組み
大阪府では複数のNPO法人が中心となり、働く意思を持っていて就職活動に至っていないニートの若者を「レイブル」(レイトブルーマーの略で遅咲き、大器晩成の意)と言い換える取り組みが2011年に開始した[13][14]が、Yahoo!ニュースが「この呼称変更策は効果があると思うか?」という意識調査を実施したところ、「効果はある」「ある程度の効果はある」との回答が6%に止まり、「まったく効果はない」だけでも72.7%、「あまり効果はない」も18.2%に上った。「効果はない」と回答した者からは、「名前を変える以外にやることがあると思う」「働く意思のある奴はどんな呼称だろうと動く」「むしろ、もっと恥ずかしいネーミングが良い」「呼び方を変えるだけで効果が上がるなら、こんな簡単な話はない」などの冷ややかなコメントが寄せられた[15][16]。
これとは逆に、ニートの存在に憤る保守派など批判者からは「ニート」の呼称を言い換えるべきとの提言もなされている[17]。
日本における定義
日本における若年無業者(ニート)の算出方法は、厚生労働省『特定調査票集計』の中の「詳細集計」(総務省の労働力調査)に基づいており、そのうち、15〜34歳の非労働力人口[18]の中から、専業主婦を除き、求職活動に至っていない者と定義している。いわゆる「家事手伝い」については、現在の厚労省の定義ではニートに含めていない(下記)[19][20]。
- フリーターや失業者との区別
- 厚労省の定義では、失業者は労働力人口の「失業者数」に分類されており、そのうち正社員及び派遣社員での就労を希望する者であれば、たとえ具体的な求職活動に至っていない無業者であっても「ニート」には分類しないこととしている。その一方で、アルバイト及びパートタイマーなど一部非正規雇用での就労希望者の場合には扱いが少々異なる。これらの雇用形態で就労を希望する無業者のうち、求職活動に至っていない者であれば「ニート」、具体的な求職活動に至っている者であれば「フリーター」に分類している[19]。この差異の理由については明らかではない。
- 引きこもりとの重複
- 厚労省が別途に実施した調査では、いわゆる「引きこもり」の状態にある者(20〜49歳)が全国でおよそ32万世帯いると推定されており、同省ではこれらの者たちをニートの「就業希望を有しない者」に含めている。つまり、引きこもりを「ニート」として扱っているわけである[19]。しかしながら、内閣府が2010年に実施した初の引きこもり全国実態調査(15〜39歳対象)では、引きこもりに該当する者は69.6万人おり、さらに「予備軍」がおよそ155万人いると推計された[21]。これは前述の厚労省統計によるの「ニート」に含まれている引きこもりの数を大きく上回っているものだが、厚労省研究班班長として引きこもり新ガイドラインを作成した齊藤万比古は、この数値に異論を唱えている[22]。
厚労省と内閣府による二重基準問題
かつて採用されていた内閣府による定義では、1956年から総務省(1956年当時は自治庁)がほぼ3年毎、1982年以降は5年毎に実施している『就業構造基本調査』を根拠にしており、2005年に内閣府が実施した『青少年の就労に関する研究調査』においては、独身であり、普段収入になる仕事をしていない、15歳以上35歳未満の個人」と定義していた。この点は前述した厚労省のそれと差異は無いが、決定的に違うのは“家事手伝いの女性”を含めていた点である[20]。これは、同研究調査の企画分析委員長だった前述の玄田有史が定義したもので、その理由として「女性の若年無業者が家庭外での社会参加活動をしていない場合、自らの現状を表す言葉に窮し、『家の手伝いをしている』と回答する者が多く見受けられたため」だとしている[23]。同年の内閣府による調査では、家事手伝いや病気・ケガで療養中の者などを含めて、ニートの数はおよそ80万人と推計していた[24]。
フリーターについても、厚労省と内閣府が二重に統計していたが、2006年3月22日の参議院経済産業委員会において、民主党の山根隆治参議院議員(当時)から、「ニートとフリーターの数について、政府で統一をして頂きたい」との要望がなされ、当時の同省・職業安定局次長が答弁で「この政策(ニート及びフリーターの支援等)に私どもが責任を持っており、政府全体の基本的見解としては、私ども厚生労働省の試算値を政府内で取っているというふうに理解をし、そのように取り扱っている」と回答した[25]。これを受けて、内閣府によるフリーター及びニートの推計調査は、2005年に行った『若年無業者に関する調査』を最後に実施されなくなった[20]のだが、前述のように、内閣府は現在も引きこもりに関する全国実態調査などを別個に実施している。
実態に関する調査
推移
年 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 44 | 49 | 64 | 64 | 64 | 64 | 62 | 62 | 64 | 63 | 60 | 61 | 63 |
年 | 年齢
| |||
---|---|---|---|---|
15〜19歳 | 20〜24歳 | 25〜29歳 | 30〜34歳 | |
2002 | 12 | 17 | 18 | 17 |
2003 | 11 | 16 | 18 | 18 |
2004 | 10 | 18 | 19 | 18 |
2005 | 9 | 16 | 20 | 19 |
2006 | 10 | 17 | 18 | 18 |
2007 | 9 | 16 | 18 | 18 |
2008 | 9 | 16 | 18 | 19 |
2009 | 10 | 16 | 18 | 18 |
2010 | 9 | 15 | 17 | 17 |
2011 | 9 | 15 | 18 | 19 |
2012 | 9 | 17 | 18 | 18 |
- 資料出所:総務省統計局「労働力調査(基本集計)」
- 資料出所:2010年12月3日付・厚生労働省 職業能力開発局 キャリア形成支援室「勤労青少年を取り巻く現状について」[19]
- 資料出所:2013年3月25日付・厚生労働省 職業能力開発局 キャリア形成支援室「勤労青少年を取り巻く現状について」[26]
「総数」の表を見ると、若年無業者人口は2002年に前年の49万人から64万人へと急増している。これは、2005年以降の労働経済白書でニートの定義に「家事を行わない既婚者」やいわゆる不登校の状態にある学生を新たに加え、過去の数値についても訂正したからである。従って、2002年以前の数値にはこれらの者が含まれていない。
最終学歴
年齢(歳) | 学歴
| ||
---|---|---|---|
中学卒 | 高校卒 | 大学卒 | |
15〜19 | 16 | 9.3 | - |
20〜24 | 10.5 | 4.5 | 1.9 |
25〜29 | 9 | 3.3 | 1.3 |
30〜34 | 8.6 | 2.4 | 1.1 |
35〜39 | 8.7 | 2 | 0.8 |
40〜44 | 10.4 | 1.8 | 0.9 |
- 資料出所:「平成19年版就業構造基本調査」労働政策研修・研究機構による再集計
- 資料出所:2010年12月3日付・厚生労働省 職業能力開発局 キャリア形成支援室「勤労青少年を取り巻く現状について」[19]
最終学歴は高校の中退を含めた中学校卒(中卒)が最も多い。特に学歴が中卒の場合、職業の選択肢が狭まるだけでなく、専門学校や教習所・職業訓練施設などへの入学も制限されることと、普通自動車免許などを除き中卒でも取得可能な免許・資格が制限されるため、無業者に陥る割合が高くなる様子が窺える。
求職活動をしない(できない)理由
理由 | 学歴・就業経験
| |||||
---|---|---|---|---|---|---|
合計 | 中学卒 | 高校卒 | 大学卒 | 就業経験あり | 就業経験なし | |
探したが見つからなかった | 7.8 | 6.9 | 7.8 | 6.6 | 8.4 | 6.9 |
希望する仕事がありそうにない | 7.2 | 8.6 | 6.5 | 7.2 | 6.9 | 7.7 |
知識・能力に自信がない | 11.1 | 11.5 | 12.4 | 9.1 | 10.9 | 11.5 |
病気・けがのため | 28.7 | 26.1 | 29.1 | 29.7 | 32.3 | 22.8 |
育児や通学のため | 0.6 | 0.3 | 0.9 | 0.4 | 0.8 | 0.3 |
家族の介護・看護のため | 0.8 | 0.1 | 1.2 | 0.8 | 1.1 | 0.3 |
急いで仕事に就く必要がない | 6.1 | 5.1 | 6.5 | 6.2 | 7.1 | 4.5 |
進学や資格取得などの勉強中 | 12.3 | 5.6 | 9.2 | 20.4 | 11.7 | 13.3 |
その他 | 25.3 | 33.2 | 26 | 19.6 | 20.8 | 32.7 |
- 資料出所:労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状-平成19年版「就業構造基本調査」特別集計-」
- 資料出所:2010年12月3日付・厚生労働省 職業能力開発局 キャリア形成支援室「勤労青少年を取り巻く現状について」[19]
全階級を通じて、病気や怪我など健康上の理由や親の介護などで就労に向けての各種活動を行えないと回答する者が3割前後を占めている。学歴別だと、「探したが見つからなかった」「希望する求人がありそうにない」が中卒で最も多く、「知識・能力に自信がない」も高卒に次いで2番目に多い。一方大卒では、「知識・能力に自信がない」とする理由が最も少ない半面、キャリアアップに向けて「進学や資格取得などの勉強をしている」とする者が他の学歴と比して突出している。
生活状況
2007年に厚生労働省委託により実施された調査『ニートの状態にある若年者の実態及び支援策に関する調査研究』
によると、出身家庭の経済状況について、3.3%が「余裕がある」、10.8%が「やや余裕がある」、47.1%が「ふつう」、28%が「やや苦しい」、8.9%が「非常に苦しい」と回答。就業経験については、過去に連続1か月以上就労した経験がある者は79%で、就労回数は平均2.6回となっている。就職活動については、75.8%がハローワークに通ったことがあり、68.2%が面接を受けるため企業に問い合わせた経験がある他、64.8%が実際に面接を受けている。メンタル面では、49.5%が現時点で引きこもりで、49.5%が精神科または心療内科を受診した経験があるという[27]。
ニートに対するイメージ
就労意欲
2008年4月に横浜市の「こども青少年局」が市内在住のニートや引きこもり状態にある15〜34歳までの若年無業者およそ750人を対象に実態調査したところ、8割を超す者が就労を希望すると回答した。内訳は、「正社員の就労を希望」との回答が46.6%、「パート・アルバイト・派遣社員などの就労を希望」が1.7%、「就労希望だが不安が残る」が34.5%で、合計すると8割を超えた。一方、「就労希望だが今は休みたい」が1.7%、「就労を希望していない」も1.7%で、現状で就労意欲の無いのはごく僅かであることが分かったが、同市が市内の企業(約1,000社中、316社が回答)に対して実施したアンケートによると、雇用する意向のある企業は14.2%に止まった一方、83.3%の企業が「就労困難な若年無業者を雇用する意向はない」と回答しており、ニートの社会参加が非常に厳しい現実を表す結果となった[28]。
『ネット右翼』との関連性
インターネット上で保守・右翼的な主張をする「ネット右翼」について一部では、ニートや引きこもりなどの無業者や低所得層といった「負け組」ではないか、との主張がなされている[29]。しかし、「ネット右翼の代表」を自称する政治活動家の瀬戸弘幸は、ネット右翼をニートや引きこもりと関連付ける言説は左翼の決め付けであり、彼ら(ネット右翼)は全く普通の会社員や学生であると反論している[30]。また、ジャーナリストの安田浩一は、「攻撃的引きこもりと揶揄されることもある」と主張しつつも、自著『ネットと愛国』在特会の「闇」を追いかけて 』の中で、保守系市民団体の在日特権を許さない市民の会を追跡したところ、デモ運動などの参加者には会社員や学生も多いことを記している。
評論家の古谷経衡も自ら調査し、ネット右翼の中心層が年齢は平均38.15歳。学歴に関しては63.3%が「四大卒(中退含む)」以上で同年代(2010年国勢調査における35〜39歳の「四大卒以上」は23.14%)と比べても3倍近く差があり、年収も大体平均400万円台後半、恋愛経験も自己申告だがほぼ一般的なレベル。住んでいる場所は4割が首都圏で、「大都市に住むミドルクラス」というのが、ネット右翼と呼ばれる層の実相であるなど、これまで語られたネット右翼のイメージが事実と大いに異なることを明らかにした[31]。
対策・支援
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詳細はリンク先を参照。
- 厚生労働省
- 地域若者サポートステーション
若者自立塾(委託、2010年3月31日に事業終了)
私のしごと館(雇用・能力開発機構が設置運営、後に委託、2010年3月31日に事業終了)
ヤングジョブスポット(雇用・能力開発機構が設置運営、2008年3月31日までに事業終了)
鳥居徹也(2005・06年度厚生労働省委託事業「フリーター・ニートになる前に受けたい授業」講師)
- 経済産業省
ジョブカフェ(所管)
文部科学省・民間(企業・NPO法人など)
- キャリア教育
- 内閣官房
再チャレンジ(再チャレンジ担当室・内閣府特命担当大臣)
- 起業
- NEET (企業)
課題・問題点
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「ニート利権」問題
著書『「ニート」って言うな!』を上梓した本田由紀は、ニートの支援に関連する諸々の対策が利権の温床となっており、上に挙げたような、各省庁や地方公共団体、支援に携わる特定非営利活動法人等の民間団体や企業までもが「ニートの自立支援」を名目とした予算の争奪戦を繰り広げている現状があると指摘している。本田は、「これまで引きこもりへの支援を細々と行っていたような団体が、ニートへの支援を謳い始めた途端にお金が降りて来るというような現象が起きている」と指摘、これらの者が従来行っていた“引きこもり対策”を“ニート対策”にシフトさせて利権を拡大させたと分析している[32]。実際に、経済産業省所管の就業支援事業『ジョブカフェ』において、同省からの孫請けで事業を行っていた、リクルート、東京リーガルマインド、日本マンパワーの民間企業3社が、スタッフ1日当たりの人件費として、プロジェクトマネジャーが120,000円、コーディネーターが90,000円、キャリアカウンセラーが75,000円、事務スタッフが50,000円という極めて高額な賃金を計上していることが、2007年に発覚している[33][34][35]。この問題は、社民党の福島瑞穂参議院議員が参議院厚生労働委員会において、厳しく追及した
[36]。
この他にも、若年無業者の相談窓口の1つである『地域若者サポートステーション』の運営・指導・研修などを委託されている公益財団法人・日本生産性本部は、民主党政権時代の事業仕分けにおいて、厚生労働省からの天下りが27人いると指摘されている。若者サポートステーション事業の予算は、2014年1月の安倍政権の事業仕分けにおいて、厚労省の若者支援事業に「わかものハローワーク」や「ジョブカフェ」などの類似した事業が多いことを理由に一旦はゼロになったが、同省が補正予算で「若者育成支援事業」と名称を変えて35億円の予算を復活させていたことが判明した[37]。
高額な料金負担
2009年度まで実施されていた厚労省委託の自立支援事業『若者自立塾』では、常に利用者数が募集枠を大幅に下回り、その後の利用実績も伸びなかったが、その大きな要因として「利用料金の高さ」が挙げられていた。団体によって異なっていたが、補助金から支給される運営費は要支援者1人につきおよそ300,000円(3か月分)で、これとは別に施設側が提示した「食費」や「宿泊費」の費用160,000〜300,000円(3か月分)を入所者側が負担しなければならなかった。高額な料金負担を問題視した同省は、2008年5月以降に生活保護受給世帯の若者が入塾する際、費用の大半を負担する制度を導入したが、一方で“生活保護を受けていない低所得世帯”の若者はこの恩恵に与れなかった[38][39][40]。なお、若者自立塾を取材し調査を行った人物は、「このような施設に通うことが出来る人は比較的問題が少なく、経済的に恵まれている家庭の人であると思う」との見解を示している[38]。
現在厚労省委託により実施されている地域若者サポートステーションでも、やはり高額な料金負担が問題視されている。サポートステーションでは社会復帰に向けて「職場体験」や「就労訓練」などが行われているが、原則として賃金は得られない[41]。そればかりか、逆に料金の負担(出典元のケースでは50〜60万円)を求められる。ある支援団体のケースでは、利用者が給与の支払いを求めると、「働かせて頂いてるんだから、(賃金を)受け取ろうとするほうが間違っている」「仕事がしたいんなら、どうぞハローワークへ行って、勝手に仕事探してください」などと切り捨てられ、賃金の支払いには応じてくれなかったという。サポートステーションでの無償就労について労働基準監督署は、「時間拘束や指揮命令などの労働者性があれば、一般的には労働と考えられる」と指摘し、労働基準法違反に当たる可能性も示唆している[42]が、現在までに行政処分を受けた支援団体はない。なお、サポートステーション事業委託先の1つである『「育て上げ」ネット』の担当者は、この高額な料金負担の必要性・正当性を説いており、「サポートプログラムや職業訓練等にはある程度お金が掛かるので、出来れば(親の)定年前の金銭的余裕があるうちに相談に来られる方がよい」などとサポートプログラムへの参加を呼び掛けている[43]。
強引なアプローチ・実力行使
若年無業者(引きこもり・ニート)を立ち直らせる方法を巡っては、「家から叩き出せばよい」などと実力行使を主張する者が少なからず存在し、賛否両論がある[44][45]。支援団体の中にも、若年無業者宅へ出向いて自立訓練などへの参加を促す「アウトリーチ」(訪問)を行っている団体が多く存在しており、NPO法人『ニュースタート事務局』が実施する「レンタルお姉さん」は、マスコミでも度々取り上げられ、地域若者サポートステーションのモデル事業にも組み込まれた[46]。しかし、こうした手法については、若年無業者の自宅に押しかけて本人の同意も得ずに強引に連れ出し、寮に入所させて集団生活を強いる団体が訴訟を起こされたり[47]、同じく強制的に寮に入所させられた引きこもり状態の青年が、スタッフやその意を受けた他の若年無業者らに身体拘束されたり、暴行を受けるなどして死に至った事件[48][49]、精神的に不安定だった引きこもりの入所者が自殺に至ったトラブルなども多く発生している[50][51]。
ニートの親への家庭訪問
ニート本人が支援機関に訪れる事はほぼ無いため、支援機関側からニートの側へ近づく必要があるという考え方もある。もちろんニート本人には歓迎されない客である事を理解した上で、まずはその両親への訪問を行い交流を続け、その様子をニート本人に観察させ、警戒心を解く事が必要とされる[52]。
ニートに関する発言・見解
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批判
- 衆議院議員の小沢一郎は、「本人たちは『誰の迷惑にもなっていない』と言うかもしれないが、親の稼ぎで食わせて貰って、公的なサービスも享受している。病気でもないのに他人に寄生して生きているなど、とんでもない話だ」と不快感を示し、続けて「彼ら自身も問題だが、何よりも厳しくせずにただ甘やかしている親たちが問題だ。親鳥はヒナが大きくなるまでは一生懸命に世話をするが、一定の時期が来ると冷たく突き放して巣立ちさせる。それが出来ないニートの親は動物にも劣るといっても過言ではない」などの持論を展開した。また、当時政府与党が準備していた対策などについても、「政府は今後ニートの就職支援に本腰を入れるそうだが、僕に言わせれば対策は簡単だ。一定の猶予を与えて、親が子供を家から追い出せばいい。追い詰められれば、彼らも必死に考えて行動するはずだ。それでも働きたくないというなら、親には一切頼らず、他人に迷惑もかけず、公的なサービスも受けないことだ。無人島で生活すればいい」などと切り捨てた[53]。
- 国会議員や東京都知事を歴任した作家の石原慎太郎は、「ニートの問題というのは、国家の緊張感の問題に関係があると思う。例えば、韓国には徴兵制度がある。途上国には貧困や食糧の問題がある。そうした色々な問題が緊張感を生んでいる」という持論を述べた[54]。続けて、「結局、これは私たち大人の責任で、社会全体が子供たちを甘やかしすぎた。(動物行動学者の)コンラッド・ローレンツは、子供の時に(虐待ではない)肉体的な苦痛を味わわなかった子供は、大人になって非常に不幸な人間になると言っている。我慢するといった作業の中でこらえ性が身に付くのだ。日本の子供はこらえ性がないから結局ニートになってしまう。」などと批判した[55]。
登山家の野口健は、「僕が登山のために訪れたチベットには貧しい人が沢山いる。仕事をしなければ食べていけない。僕の仲間が『(チベットの)彼らには“ニート”という発想が無いだろう』と言っていたが、その通りだと思う。日本は親がニートにご飯を食べさせているから、そういう意味ではもっと厳しくていい」などと批判した[55]。
写真家・ジャーナリストの宮嶋茂樹は、「税金も払わない上に、三十路になっても親がせっせと部屋に“エサ”を運び続け、パソコンに向かってしか他人と会話できん奴をニートと呼ぶそうだが、そんな穀潰しが何十万も生きているのは世界広しと言えども日本だけである」となどと批判し、続けて「お隣の半島南半分ではサッカー選手から、大統領まで男は全員2年以上の徴兵される。日本でも8ヶ月ぐらいでいい。ニートに対して規律、勇気、自己犠牲、国防意識という美徳を自衛隊で徹底的に教育し直すべきである」と述べ、ニート対策として徴兵制度の導入を唱えている[56]。
精神科医の香山リカは、自身の連載コラムの中で、脱(反)原発運動にのめり込んでいる者の多くが「引きこもり」や「ニート」であるとし、「(反原発派は)病名をつけなければならないとしたら適応障害」「ファンタジーへの逃避で平穏を保ってきた彼らがいま原発問題にこころの平穏を見出している」などと主張した[57]。その後強い批判を受け、誤解を与えたとして謝罪した[58]。- 元衆議院議員で現在はタレントの杉村太蔵は、女性セブン誌上の人生相談において、無職の息子を持つ主婦の相談に「ぐうたらに生きているのなら甘やかしてはいけません。兵糧攻めするぐらいの勢いで、まず食事は作らないこと。さらに厳しく“働かないなら家を出て行ってくれ”ということ。それぐらいしないと気づかないこともありますよ。」などと回答した[59]。また、著書『バカでも資産1億円 「儲け」をつかむ技術』に関する取材の中でも、ニートの中でも単なる怠け者に該当する部類の当事者について「いちばん悪いのは彼らの親です。食べるもの、寝る場所があれば、働かなくても済んでしまうわけです。これは家庭で取り組むべき問題です。親は一切の援助をやめて、子供を社会に放り出すべきです」と述べた[60]。
- タレントのクリス松村は、2014年5月に発生したAKB48握手会傷害事件の犯人が無職(引きこもりあるいはニート)と報じられたことを受け、ブログで「働くことは国民の義務のはず」「大体、人を傷つけられるということは健康なわけですから、無職ということ自体おかしい」「こうした事件を起こすほぼ100%が無職です」[61]などと厳しく非難した。また、「政府は、これから“無職者を無くそう!”というキャンペーンでも打ち出して、実行するべき時です。2020年の東京オリンピックに向けて、急務な課題だと思われます。“美しい国、日本”として」などの持論を展開し、賛否両論を招いた[61][62]。その後、「決して無職の方を非難したわけではございません。やむなく現在は無職という方々も多くいらっしゃることは存じておりますが、働かないことで心が病んでしまってはいけない…という内容の文面でした」などと内容の一部について釈明した[63]。
擁護
経済学者の田中秀臣は「日本では、ニートはその原因を本人のやる気のなさに求める風潮にあるが、本質は不況による失業問題なのである[64]」「ニートが急速に増えたという1997年以降は、ちょうど不況が深刻化した時期である。つまり、ニートの増加は景気に大きく左右されていると考えられる[65]」と指摘している。田中は「日本の若者は駄目になったのではまったくなく、そう見えるのは逆に責任をとらない既得権益を丸出しの大人達がいるからである」と指摘している[66]。また田中は「内閣府の『若年無業者に関する調査』中間報告のニート数約80万人は『数字操作』であり、この拡張版『ニート』は求職意欲喪失者といわれる層を大きく含んで定義している」と指摘している[67]。- 経済学者の大竹文雄は「日本のバブル崩壊以降の長期不況によって、若年層の就職が困難な時期が続いた。この経済環境が、若年層を中心に勤勉に対する価値観を崩壊させた可能性がある」と指摘している[68]。
- 経済学者の原田泰は、若年失業者の増加は経済情勢を反映したものであり、若者の性格・教育システムが変わったせいではないとしている[69]。原田は「現在ニートとなっている若者の中には経済情勢が良ければ、就職し、仕事から自身を見つけ、社会適応力を身につけることができた若者も多いはずである。何もかも構造のせいにするのは、社会問題の解決を妨げる」と指摘している[70]。
- 経済学者の飯田泰之は、高齢者がニートやフリーターら定職に就いていない若者を非難する際、「自分の若い頃は戦争でこんなに大変だった」などといった自己正当化の言葉をぶつけてくるため、反論の余地がなく議論にならないと指摘している[71]。
提言
- 元衆議院議員の武部勤は、フリーターやニートの状態に置かれている若者に対して、「1度自衛隊にでも入って(イラクの)サマワみたいなところに行って、緊張感を持って活動してみるといい。そうすれば、3か月ぐらいで瞬く間に変わるのではないかと思う」となどと語った[72]。
- 衆議院議員の稲田朋美は、「ニート問題を解決するためには“徴農制度”を実施すべき。若者に農業に就かせる徴農を実施すれば、ニート問題は解決する」などと持論を述べた[73]。
- 田中秀臣は「ニート対策に効果があるのは、教育・雇用のミスマッチ解消ではなく、景気対策である」と指摘している[74]。田中は「ニート対策として公営・民間の就職相談所の活用、ニート層への課税によって労働・教育を受けるインセンティブを促すといった政策が提唱されているが、求職意欲喪失者への対策は景気対策が必要なのであり、税金を課したり、公営の説教を垂れることでは解決しない。このような政策はいたずらに社会的なコストを増やしかねない」と指摘している[75]。田中は「構造改革主義者は、ニートが働かないという経済的な非効率性のみに注目している。ニートについて、ミクロ(個人)の問題を効率性一辺倒で捉えるのではなく、マクロの視点に立って社会全体への関心として解消をはかるべきである」と指摘している[76]。
揶揄
アイドルグループ・NMB48の山本彩は2011年9月放送の日本テレビの番組『なにわなでしこ』内でのモノボケ(物を使ってボケて笑いを取る)企画で、ドッグフードを手に取り「ニートの主食」とボケた。インターネット上を中心に批判の声が上がったが、これを擁護する意見や、「どこが問題なのか?」「バカにされたくなければ働けばいい」などとニートを更に非難する声も多かった。なお、当該シーンは日テレで放送されたが、遅れネットの読売テレビではカットされている[77]。
世界各国の状況
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欧米
欧米においても「教育、労働、職業訓練のいずれにも参加していない者」は存在するが、日本語でいうような「ニート」あるいは類する語での分類・定義付けはされておらず、その概念も普及していない。その原因の一つは「ニート」という分類が1999年当時社会問題となっていた「社会参加困難者」(被社会的排除者)の一部にすぎないものであることが挙げられる。欧米における社会参加困難者は人種・宗教・言語による差別・格差問題の色が濃く、日本での若年無業者問題と同列に扱うことは困難である。英国の「NEET」の定義付けは将来的な社会参加困難者を予測する分析としての意義はあったが、総合的な社会的排除対策が行われる中で「NEET」という分類自体は重要視されなかった。
韓国
2007年にOECDは、韓国の青年(15〜29歳)の6人に1人が「NEET」で、割合はOECD加盟国の平均を大きく上回っていると指摘した[78]。同国では前政権下、雇用安定を目的として法的に解雇が大きく制限された。このことによって、企業が若者の新規採用を手控えるという意図せぬ結果を生み出してしまったとされる。OECDは韓国に無業者が多い理由について、「兵役で就職が遅れ、大学卒業後にも就職しない若者が多いため」と報告した[78]が、徴兵制は若者を強制的に社会参加に強いる制度でもあるため、青少年期の引きこもり状態からそのまま全く社会経験を経ずに家に閉じこもったまま「NEET」に移行していくパターンは、日本より少ない。
中国
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参考文献
- 近藤瑠漫・谷崎晃編著 『ネット右翼とサブカル民主主義 ――マイデモクラシー症候群――』 三一書房、2007年8月。ISBN 978-4-380-07218-5。
外部リンク
- ニートサポートネット
- 海外の研究者によるニート問題の構築に関する学術論文(オープン・アクセス)"'Don't Let Your Child Become a NEET!' The Strategic Foundations of a Japanese Youth Scare"
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