便器
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便器(べんき)は、人間が主に大小便の排泄に使用する器具であり、古くは移動式もしくは屋外設備であったが、近年は陶器製のものが普及しており、住宅設備部材の一つとなっている。
目次
1 概要
2 小便器
2.1 種類
2.2 構造
3 大便器
3.1 しゃがみこみ式
3.1.1 各国のしゃがみこみ式
3.1.2 和風大便器(和式大便器)
3.1.3 洋式への移行
3.2 腰掛大便器(洋式・洋風大便器)
3.3 洗浄方式
3.3.1 洗い出し式(和式)
3.3.2 洗い落とし式(腰掛式、和式)
3.3.2.1 ネオボルテックス式(腰掛式)
3.3.3 サイホン式(腰掛式)
3.3.3.1 セミサイホン式(腰掛式)
3.3.4 サイホンボルテックス式(腰掛式)
3.3.5 ブローアウト式(腰掛式、和式)
3.3.6 水道直圧式(腰掛式)
3.3.6.1 ハイブリッドエコロジーシステム
3.3.7 トルネード式(腰掛式)
3.3.7.1 ツイントルネード式(腰掛式)
3.3.8 6リットル便器
4 給水の形態
4.1 フラッシュバルブ式
4.2 タンク式
4.2.1 ハイタンク式
4.2.2 ロータンク式
4.2.3 シスタンバルブ式
4.2.4 フラッシュタンク式
5 水洗便器用薬剤供給装置
6 水洗便器の製法
7 便器のカラー
8 便器の品番確認
9 便器の表面処理
10 注意事項
11 水洗便器とトイレットペーパー
12 脚注
12.1 注釈・出典
13 関連項目
14 外部リンク
概要
住宅や施設といった世界中のあらゆる建築物において、便所に設置されている。便器の形状や設置の仕方、汚物の処分方法は、使用されるそれぞれの国の生活習慣や水事情によって異なる。小用専用の小便器と、大小用兼用の大便器がある。大便器には、トラップとよばれる水たまりを持つ水洗式の便器と、主に汲み取り式として使われる、便器に穴が空いた落下式の便器がある。水洗式便器は、水道管を便器の給水口に接続して、流水により便器内の排泄物を洗浄する。便器の排水部は、下水道が設置されている地区では下水道に接続し、下水道が設置されていない地区では浄化槽に接続する。水洗式便器の排水部に接続される下水管は現在は主に硬質塩化ビニル管(VU管)や強化プラスチック管(FRPM管)、ポリエチレン管(PE管)が使用されるが、古くは概ね土管と呼ばれる陶管(セラミック管)や鉛管と接続された。水洗式便器に使用する洗浄水は上水道の他、一般住宅以外のトイレでは雨水や 井戸水の他、中水道や工業用水道などが使用される場合が多い。便器洗浄水は、殺菌などの水処理を行う必要や濁度の基準はないが、中水道は人体と直接接しない目的や場所でしか用いることが出来ない為に手洗い付洗浄タンクは使用出来ず、密閉タンクやフラッシュバルブが使用される。
一般に設置には給水排水工事を伴うため、日本では購入や工事は衛生設備工事業者が行うのが普通であり、卸売業者や問屋からは衛生設備工事業者や水道設備業者以外の一般には販売されないことが多かったが、最近では埋め込み等施工が困難な和式便器に対し、比較的施工が容易になった洋式便器が主流となり、DIY、日曜大工で施工される事も増えた事からホームセンター等でも販売され、消費者が小売店や通信販売で直接購入できる事ができる機会が増えた。また、設置のノウハウなどもインターネットで広く紹介されるようになり、消費者が自分で設置するのも容易になっている。
小便器
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日本にある近代的な陶器製の小便器は、主に男性用で、座らずに用を足す形になっている製品がほとんどである。衛生面から跳ね返り、尿石の付着を防ぐためにトイレボールと呼ばれる洗浄薬剤を排水口付近に置いたり、水洗式小便器上部の給水管に連結した、サニタイザーディスペンサー(薬剤供給装置、Sanitizer dispenser)により薬剤を便器に供給することもある。
古い公共の施設(公園などの公衆便所や鉄道駅の構内など)では混雑時に複数人同時に並んで用が足せるように個別でない設備もあり、その場合人の立つ場所が一段高くなって、向かい側の溝に流す形になる[1]。しかし近年は個別の設備が並んで設置されるのがほとんどである。
種類
- 床置(ストール)型小便器- 縦長の床置型小便器で大型、中型、小型に分類される、公衆便所に並んで設置される場合、ささやかな仕切り板が付けられることがある。以前の水洗便所用の製品ではトラップがなく、別に地中に埋め込まれた鉛管のトラップと組み合わせて設置される方式であったが、現在の製品は大方が施工が容易な便器作り付けのトラップであり、尿石付着時の清掃を容易にするためにトラップが脱着式になった製品がほとんどである。また、トラップがない製品は汲み取り便所(簡易水洗を含む)で使用される場合もあり、逆にトラップがある製品でも少数だが汲み取り便所(簡易水洗を含む)として使用される場合もある。
- 壁掛け型小便器 - 戦前からあり、俗に朝顔と呼ばれる楕円形の普及品であったが、最近は、大型、中型の様々な形状の製品が存在する。成人男性の股間の高さに設置されていることが多く、このタイプは子供には使いにくい。このため、低めの高さに設置されたり、踏み台を設けたり、床置(ストール)型小便器と併設されたりすることもある。
- 低リップ型小便器-壁掛け型と床置(ストール)型の折衷型の小便器で壁掛け型ながら床置(ストール)型同様の縦長の小便器で子どもから大人まで楽に使える形状で床清掃も容易で最近新設や改修されるトイレの小便器の主流になっている小便器。
- 手洗い付小便器 - 西日本高速道路会社とTOTOの共同開発で低リップストール型小便器の天板に、底に六つの穴があいた手洗い器になっており。蛇口に手をかざすと水が出て、手を洗った水が下の便器まで洗う機能で。壁に赤外線センサーがあって、離れると洗浄水が便器を流れる通常の機能に加えて。手洗いに使った分だけ便器に流れる水量が減る仕組みで、手洗い水を便器の洗浄に再利用する節水機能が評価されエコプロダクツ大賞エコサービス部門の優秀賞を受賞した。
- 筒型小便器 - 竹筒のような形状の便器で和風の飲食店のトイレで使われることが多く、はね返りと臭気防止のため氷を投入してある(尿素のアンモニアへの酸化分解による臭気発生を低温にすることで防ぐ)場合もある。
- 省スペース型小便器 - 一般住宅でも取り付けが可能な細身のデザインとなっている。TOTOでは「スリムU」の愛称がある。(ただし、2005年6月に生産終了した。現在では発売されていない)
- 女性用小便器(サニスタンド)- アメリカで1930年代に当時は高級品のナイロンストッキングが普及した際、腰掛式では座った際に伝線などの恐れがあったが、中腰ならそれが防げるとして発売された女性の立ち小便用の便器。日本では1951年に東洋陶器(現:TOTO)が製造・販売を開始したが、まだ和服が多く、女性が座らず小用をするとは奇妙な製品だと一般に受け取られ、その結果普及せず、1971年に製造中止となった。なお、1964年東京オリンピックの際には、女子選手用として国立霞ヶ丘陸上競技場内に設置された[2]。
- 幼児用小便器 - ストール型小便器を幼児(男児)が使いやすいようにサイズを小さくしたもの(通常のストール型を幼児用として設置する場合もある)。幼稚園・保育所及び公共施設(近年(百貨店ではかなり前から)、母親と共に訪れた幼い男児向けに、このタイプの小便器が女子トイレや多目的トイレに設置されていることが多い)で用いられる。INAX(当時。現社名LIXIL)製のものはミニチュア版ストール型小便器といった形だが、TOTO製のものは丸型の独特の形をしている。
- 壁式小便器 - 公園などの公衆便所や鉄道駅の構内など小便器の場合、古い施設では混雑時に複数人同時に並んで用が足せるように、個別に便器が無く、タイルやコンクリートの壁、(便器は存在しないが、便宜上「壁式小便器」と呼ばれたりする。タイルやモルタルの壁のみがあり(仕切板が存在する場合もある)、その壁に尿が当たって下の溝に流れる形態である)あるいはFRP製の壁のような便器があり、その場合人の立つ場所が一段高くなって、向かい側の溝に流す形で、水洗式の場合でも、その壁に水を流す管が付いているだけのトイレが多用されていた。しかしこのタイプは水洗式であっても、小便の跳ね返りや尿石からの悪臭や蛆などの衛生害虫が発生しやすい等、利用者から臭くて不潔な印象としてかなり不評であり、最近は個別に小便器を設置したトイレに改修された場所も多く、急速に減少している。
- 尿瓶(男性用、女性用)
- 尿筒(しとづつ)
構造
上部を起点に:上水道管、洗浄用のフラッシュバルブ(センサーやハイタンクによる自動洗浄の場合は水道管のみ)、洗浄水の吐水口、中心部、リム部(排泄時にちょうど尿が当たる部分)、排水口、陶器製のトラップ、配水管、排水管の途中に設けた排水トラップの順番となっている。
一方、壁掛け型小便器は便器本体がボルトやネジで壁に固定されており、便器の下部に排水トラップ部が露出している。
大便器
大便器は大小用に用いられる普通の便器のことであり、しゃがみこみ式(和式・和風と呼んでいる日本の伝統的便器)と腰掛式(おもに洋式・洋風)がある。なお、しゃがみこみ式は日本独自のものではなく西洋を含めた各国に存在する。
しゃがみこみ式
しゃがみこみ式便器(英語en:Squat toilet)は東南アジアから南アジア、西アジア、ヨーロッパにかけてそれぞれ伝統的な様式が存在する。
各国のしゃがみこみ式
- アラブ式
中東からアフリカにかけてのイスラーム文化圏に多く見られる様式。金隠しがなく、しゃがみこむ際に足を乗せる部分も一体になっている。- トルコ式
- アラブ式から発展した形態で、日本では腰掛の「洋式」と区別するため(イスラーム圏の)トルコ式と呼称しているが、実際にはヨーロッパのキリスト教圏の国で見られる形態である。
- 日本においてはこの便器をモチーフにした製品をかつてスターライト販売が生産していた。黒色プラスチック製のたらいに足場を設けたような風貌で、便器全体を洗浄するという非常に画期的な便器であった。かつては国鉄の主要駅や全国の公衆便所で採用されたが、いずれの形式も金隠しがない、ボウル面が狭い、しゃがみこんだ時の足幅が狭いなど、和式ほど洗練されていなかったこと、日本型の水洗便所に適さなかったなど、文化的に受け入れられなかったかったことから現存数は少ない。
和風大便器(和式大便器)
しゃがみこみ式のひとつで、日本特有の構造であることから通常は和式と称される[3]。和便(わべん)または日本式とも言う(韓国など海外では「東洋式」と呼ばれる場合もある)。床に埋め込まれる形で施工される、跨り屈んで使用する大便器。材質は陶器製で、列車用などにはステンレス製、公衆便所などの一部にはFRP製もごく少数ある。便器前部に、金隠しと呼ばれる部分があり、その形状は長らく半円状であったが1990年代頃より台形状にモデルチェンジされたものが殆んどである。
和風便器は平面床に埋め込んで施工される一般の和風便器と和風便器を一段(20〜30cmほど)高くした床に設置し、便器後部を段違い部に張り出させて男子小用を兼ねる和風両用便器(通称汽車便)が存在し[4]、後者は小便器の設置空間が取り難い日本の住宅環境もあり、一般住居で広く採用された。
和風水洗便器の給水方式は床上給水式と床下給水式がある。
床上給水式は金隠し前上部にある給水口に、タンクからの給水管やフラッシュバルブを直接、接続する方式で、施工が容易なため、隅付ロータンクと組み合わせた和風便器や、戸建住宅に施工されている和風便器のほとんどがこのこの床上給水式が採用される。特に木造住宅の場合床下給水式で施工した場合、給水管と根太が干渉し、根太の下から給水管を通すと給水管にトラップが形成され洗浄機能に著しく影響するために、施工の際、根太を欠き取らねばならないという面倒な施工方法を強いられるために、一般的に木造住宅では床上給水和風便器で施工される。しかし、この床上給水式は給水管が露出するため目障りであり、さらにフラッシュバルブ給水の場合フラッシュバルブの位置が低い位置となることから、操作レバーペダルを足で踏まれて操作されることが多く、故障や汚損の原因になったり、しゃがみこんだ時に給水管が邪魔になったり、不潔なイメージがあるフラッシュバルブを避けて排便位置が後ろよりになりやすく、便器後部のリム部に汚物が付着することがあり、さらに、清掃時に給水管が邪魔になるなど、床上給水式はフラッシュバルブとの組み合わせには機能面・美観面で不利な面がある。
床下給水式は給水口が金隠し部の床下にあり、地中に埋め込まれた給水管と接続されるが、地中に埋め込まれた給水管や壁内に配管されている給水管には主に鉛管(便器接続部付近は黄銅管や銅管)を使用するために鉛管を曲げ加工する熟練した職人を要し施工が難しい反面、給水管が露出せずフラッシュバルブを壁や便器から離れた場所、壁内などの自由な場所に設置出来、壁フラッシュバルブの場合、床上給水式とは違い、しゃがんだ時にフラッシュバルブを邪魔にならない位置に設置できることから、排便位置が後ろよりになることも少なく、便器から離れた場所や壁内にフラッシュバルブを設置した場合、和風便器の個室内は便器と壁に取り付けたフラッシュバルブの起動ボタンや起動センサスイッチーのみにすることができ、給水管が全く露出しないトイレにすることも出来るため、清掃面・悪戯防止・施工後の見た目がスッキリしているなど、機能面・美観面で優れているため、デパート、ホテル、オフィス、駅など非住宅のパブリックな空間で、主にフラッシュバルブとの組み合わせで広く採用されている。
また床下給水和風便器は、給水口が便器の通水部(リムの下部)より低い場所にあるため、便器内通水路部の残水を排出する排出用の小穴(冬場の残水凍結による破損防止のため)が設けられている。このためにフラッシュバルブが閉止後かつ便器洗浄終了直後は、便器の金隠しの残水穴から、フラッシュバルブから便器に至る管路および便器内の残水をちょろちょろと排出する姿が見られ、これは床下給水和風便器の特徴となっている。
一般便器では鉢の長さを伸ばして金隠しの高さを低くした(少しでも前方にしゃがませて便器後方リム部への汚物付着防止を図った)エロンゲートタイプが増えている。
和風便器とタンクやフラッシュバルブからの給水管(水道管)の接続にはスパッドとよばれる真鍮製のテーパー状の部品を便器の給水口に組込み接続する。和式便器の給水口内もテーパーになっており、スパッドにはテーパー状になった合成ゴム製のスカートパッキンが付いており、これを便器給水口に挿入し、外パッキンと挟み込み締め付けることにより、完全に半永久的に便器に密着して漏水しないようになっている。スパッドのほとんどは便器の洗浄管(給水管)同様ニッケルメッキされているが、床下給水和風便器用のスパッドは地中に埋め込まれることからメッキなしで真鍮の地肌剥き出しとなっている。
和風便器はコンクリート床に埋め込んで施工されるが、コンクリートの収縮や床のひずみなどによる陶器の破損防止のために陶器とコンクリートが接する埋め戻し部分(リム下部にある通水路部)には緩衝材としてアスファルトが各メーカー出荷時より標準で塗装されている(アスファルト塗装無しは注文生産)。また便器埋め込み部全面をモルタルで埋め込んで施工する場合は便器の埋め込み部全面にアスファルトを塗装する必要がある。和風両用便器等木枠で施工が前提でアスファルト塗装されずに出荷される製品に対してもモルタルで施工する場合等、施工状況によりアスファルト塗装する必要があり、この場合メーカーでは無償でアスファルト塗装に対応している。このためメーカーでは和風便器(両用便器を含む全種の和風便器が対象)の出荷時には埋め込み部にアスファルト塗布を促す注意喚起ステッカーが貼られており和風便器の破損防止を喚起している。
また和風便器の排水口部は便器の排水部を排水管(下水管)に直接差し込んで接続する一般型と、便器の排水部にフランジがあり、便器のフランジ部と排水管(下水管)のフランジにガスケットを挿み、繋ぎ合わせて接続するフランジ型がある。
和風便器には詰まりが発生した時に容易に異物を取り除けるように掃除口を設けた和風便器がパブリックのトイレを中心に設置されていることが多い。掃除口付き和式便器は便器後方にステンレスの蓋が付いた掃除口があり、掃除口は便器の排水部分に繋がっており異物を簡単に取り除けるようになっている。一部の掃除口付き和風便器は掃除口が便器のボウル部分(便鉢部)にあるものもある。
和風水洗便器初期の頃の製品は便器とトラップが別に作り分けられた分離トラップ式であったが、便器のトラップは組み合わせによって「○穴」と「●穴」の場合があり、、「○穴」は陶器製トラップとの組み合わせ、「●穴」はトラップが鉛管・土管・トラップなしの場合であるが、「●穴」の場合の多くは当時排水管は鉛管が多く使われており、その鉛管を職人技で巧みに曲げてトラップを作りこまれ、手作りの鉛管であるので、黒っぽく見えていた。どちらも施工が大変な為、現在はトラップが本体と一体に設けられた物に変わり、これらの初期の和風水洗便器は歴史の古いな建造物の未改修のトイレに僅かに見られる程度となっており、現在は不凍帯にトラップを埋め込む寒冷地仕様の一部や特殊用途以外では生産されなくなった。
幼稚園、保育園向けにサイズを約80%小さくした幼児用和風便器も存在する。特にTOTOの幼児用和風便器であるC103は金隠しが丸型の一般用旧型和式便器C75(現在は廃番)をミニチュアにした形である。
常時不特定の人が多く使う高速道路のサービスエリア・パーキングエリアの和風便器は長らく半トラップ式の特殊な便器(TOTOではC183R型便器)が採用されていた。排水口はJ字状で、排水管とは直接結ぶことはできず、傾斜のあるU字溝に流し落とす方法。排水路が短いため詰まり難い構造だが、便器の排水以後の保守点検が必要だった。現在は通常品の掃除口付床下給水和風便器(TOTOではC755CU)が採用されており、改修工事などで半トラップ式の和風便器は急速に減少している。
金隠しが凶器となるおそれがあるため、刑務所用に金隠しのないタイプもある。
便器に直結されているフラッシュバルブや給水管につかんでしゃがみこむとパイプ管を破損する恐れがあるため、列車便所のように便器の前に手すりを設ける場合もある。
洋式への移行
水洗便器の場合、住宅やオフィスの新築・リフォーム用としては洋式型に移行が進み、公共空間でもバリアフリーの観点から洋式の設置が進められている。しかし不特定の人が利用する便座に直接座ることを好まない人もいるため、不特定多数の利用がある公共施設への和式設置を望む声もあり、すべてを洋式にというわけには行かないようである。住宅用では、腰掛便器に改造工事ができるアタッチメント(TOTOの商品名は「スワレット」)もあり、簡単に腰掛式にリフォームできるようになった。
腰掛大便器(洋式・洋風大便器)
水洗便所、簡易水洗便所のほか、非水洗のものもある。男女大用、女子小用は便座に腰掛け、男子小用は便座を上げ立位で使用する便器で、本体の他、便座、便蓋で構成される。
西洋では便器と対になってビデが設置されている場合がある。ビデは17世紀頃からイタリアで普及が始まり南欧で多く見られる。特にイタリア・スペイン・ポルトガルでは1975年にビデの設置が義務付けられ、現在では高い普及率となっている[5][6]。南欧周辺国でも普及しておりフランスやドイツ、東欧諸国さらには南米でもかなり普及している。また同じ洗浄用途でビデ・シャワー(en:Bidet shower)が設置されている場合もある。これは東南アジアからインド、イスラム圏で多く見られ、北欧フィンランドやエストニアでも使われている。
日本ではペリー来航以来欧米諸国から伝わったため洋式と称するが、しゃがみこみ式に比べ洋式の形態は多様ではなく、ほぼ世界で共通した形式と言える。また西洋でもしゃがみこみ式の便器の採用例は多いが、日本では「洋式」と称した場合この腰掛式を指す。
身体障害者の使用に資する他、快適性の向上を図るため、
- 便座が電熱機能を持った暖房便座
- 温水を噴出させ大小用後の洗浄ができる温水洗浄便座(商品名:TOTO「ウォシュレット」、INAX「シャワートイレ」など)が開発され、広く普及している。
和風便器に比べ、使用姿勢の支障のなさや安定性に勝り、生活空間の水まわりにおけるバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化の核となる機器であるが、使用時に便座が直接身体に接触することが嫌われるほか、公共便所における清掃性、堅牢性は一般に和式便器の方が高い。洋式に慣れない中高年の一部には、便座を上げて便器の縁に足を乗せ、和式便器と同じ体勢で排便する者も存在する。また、このニーズに応えるために、便器の縁を広くし、足を乗せやすくした洋式便器が中国の一部メーカーで製造されている[7]が、2010年現在ほとんど流通していないという。
近年、さらなる高機能化が進み、便蓋の自動開閉、便器の自動洗浄機能などを搭載する商品も多くなり、電装化の進みつつある製品でもある。
なお、便器鉢部分の前後方向長さから、大きく分けて標準サイズとエロンゲートサイズ(大型)がある。大きさとしては標準サイズが32 - 34cm、エロンゲートが36 - 38cm前後と3 - 4cm程度の差であるが、洗浄方式(下記)においてサイホン式やサイホンゼット式が一般化したことや、便器そのもののサイズがコンパクトになったことから、近年はエロンゲートが主流となっている。また、背の低い子どもでも安心して使えるように高さを低くしたものもある。
身体障害者用として長方形、長円形のものや車椅子で移動しやすいように高さを上げたものも存在する。長方形や長円形のものは前向きに座っても、後向きに跨いでも使用できる。
幼児用として小型サイズのものもあり、幼稚園や保育園、近年では商業施設や公共施設の多目的トイレにも用いられる。これには洋式便器のミニチュア版と細長い長円型があり、後者は前向き、後向きどちらにでも座って(跨いで)使用できる。また、便器の蓋の代わりに幼児用の小さい便座を装備した「親子便座」を設けることも多い。
相撲部屋においては力士の体重に耐えられる大型の洋式便器が設置されている。
洗浄方式
もっとも簡易な普及品なのが洗い出し式、洗い落とし式であるが、構造上の欠点も多く、便器として性能が高いのは快適性や洗浄力を高めるべく開発された、サイホン式、サイホンゼット式である。汚物を水没させて便器の汚れ付着や臭気発散を防ぐ封水(溜まり水)の大きさ、洗浄力や排出力の強さと、背反となる洗浄水量の節減とが特にオイルショックに始まる「省資源時代」の技術的課題である。
在来型の便器は便鉢外周の縁(リム)内に水を流し、その下部に幾つも設けられた孔から便器内に吐水するが、INAX(当時は伊奈製陶)の節水型タンク密結便器「カスカディーナ」以来、洗浄水の水勢を損なわずに効率的に便鉢洗浄する設計とするため縁水路を廃止しノズル吐水を行う構造が改良されてきた。このような構造は最近の家庭用新設便器において定着した感があり、さらに高級住宅向け便器として、洗浄、排出を電磁切り替えで行う水道直圧による節水便器(TOTO「ネオレスト」、INAX「サティス」)の拡販が図られている。
洗浄水量は、洗い落とし式で10リットル前後、サイホンゼット式では13リットル(いずれも大洗浄)というのが一般的であったが、最近は大洗浄で8リットル、小洗浄では6リットル程度への節水化を果たした新型製品が品揃えされた。その契機となったのは、1978年から1年近くにわたって続いた福岡大渇水であった。福岡市ではこの大渇水を契機に、サイホン系であっても洗浄水量を10リットルにするよう条例で義務付けた。これに“地元”のTOTOがいち早く対応し、「福岡市専用」商品を発売した。その後全国でも渇水の影響が広がったことから、現在ではライバルメーカーを含め節水型を「基本商品」に位置づけて対応。更なる節水効果をうたった商品も販売されている。
洗い出し式(和式)
和式便器で一般的な方式であり、もっとも安価なものである。使用中は汚物をいったん便鉢部分にためてから、リム部および後部からの水勢のみで汚物を流す。便鉢奥側にトラップ(排水路の封水)があるが、手前側の便鉢部の溜水部が少なく汚物が空気に触れるため臭気が発散しやすく、汚れの付着も多い欠点がある。中央ヨーロッパやオーストラリアに洗い出し式腰掛便器もあり、通常だったが、その欠点の為に1990年代から減少傾向がある。
洗い落とし式(腰掛式、和式)
和式便器にも存在しているが、特に腰掛便器普及品の洗浄方式である。便鉢に吐出された水勢のみで汚物を排出する。欠点としては封水面が小さいため、汚物が付着しやすいほか、座面と封水との落差から水のはね返り(汲取式便器にならって、俗に「おつり」という)を気にする使用者も多い。なお、洗い落とし式の和式便器は、現在寒冷地対応品に存在する程度にとどまっている。
ネオボルテックス式(腰掛式)
洗浄水の渦作用と水勢で流す方式。洗い落とし式の一種であるが、洗い落とし式の排出力の弱さを水流によって作る封水面の渦水流によって補う方式で、封水面も洗い落とし式より広い。便鉢はサイホン式より小さくなるが、洗い落とし式に比べ高い性能を、サイホン式より少ない洗浄水量と低価格で実現し、あわせて狭小現場への対応を図ることを狙いINAXで開発された方式で、タンク密結式の他に、一部公共用システムトイレ製品(壁掛式洋風便器)も発売されている。システムトイレ用のネオボルテックス便器はTOTOでも発売されている(TOTOでの呼称は「ニューボルテックス式」)。2006年には溜水面を拡大した「ワイドボルテックス式」がマンションリフォーム用に追加された。マンション用の排水芯が高い(155mm)床上排水では、サイホン作用を作ることが難しいため、ネオボルテックス式をベースに大型便器に適した改良がなされた。
サイホン式(腰掛式)
屈曲した排水路により管内を満水させ、サイホン作用を起こさせることによって汚物を吸引して排出する方式。大きな封水と強い排出力を持つ上位機種である。欠点としては吸引時の空気巻き込みによる騒音発生があるが、現在の住宅新築用では主流となっている方式で、性能確保と節水、消音化との両立が技術課題である。
セミサイホン式(腰掛式)
サイホン式の一種であるが、便鉢や封水量を小さくし、洗浄水量の節減と低価格化、あわせて狭小現場への対応を図ったTOTOの方式である。
欠点は便鉢および便座の小さいこと、及び汚物がサイホン式と比べ付きやすいこと。
サイホンボルテックス式(腰掛式)
高級住宅向けのタンク一体型超消音便器として開発された方式で、便器の奥に一体化されたタンクから洗浄水を短時間に独特の窪みのついた便鉢の封水下へ吐出させ、落水音なく水位差をつくり、空気を巻き込まない渦作用の起こる便鉢形状によってサイホンを発生させ、空気を吸い上げることなく排出する。排水路の構造が複雑なため異物の詰まりやすい傾向があり、また大量の吐出水を確保するため洗浄水量はサイホンゼット式よりさらに多くなり、節水面、維持費用面の欠点となるが、強い排出力のほかサイホンゼット式よりさらに大きな封水面を確保でき、徹底して空気の巻き込みを排した洗浄騒音の静粛さが特徴である。タンクが便座とほぼ同じ高さにありローシルエットである。高級住宅、ホテルのほか、公共用にも静粛性が求められる場所で採用されている。
ブローアウト式(腰掛式、和式)
強力な水勢のゼット孔をトラップ底面から排出口へ向かって設け、もっぱらその噴出力で汚物を排水路へ吹き飛ばし排出する方式。封水面が広く排出力が強い。サイホンゼット式と違い、サイホンを発生させず排出力は水勢のみで排水路の構造を直線化でき、特に異物の詰まりに強いが、その反面、水勢を強い噴流発生に集中させるため、便鉢流下水が少量となり洗浄力がやや弱いほか、構造上噴流が空気中に露出し騒音が非常に大きいのが欠点で、一定以上の水圧が必要なので、洗浄方式もフラッシュバルブに限られ住宅用には適さず、特に詰まり対策を期待する公共便所やシステムトイレで、近年腰掛式、和式とも採用が広がっている。
水道直圧式(腰掛式)
TOTO「ネオレスト」(同社は「シーケンシャルバルブ式」と呼ぶ)やINAX「サティス」(同社は「ダイレクトバルブ式」と呼ぶ)の洗浄方式で、サイホンゼット式に準ずる封水を持たせ、
- 水流を便鉢に流下させ洗浄
- 続いて排水路に噴流を流し排出
- 排出後再び洗浄水を流下、便鉢の封水を復元する
一連のタイミングを電磁弁でコントロールして便器洗浄する節水型便器。2006年現在、大6リットル洗浄をいち早く実現している。汚物をゼット孔の噴出力のみで排出することからブローアウト式の一種といえるが(ただしTOTOでは「サイホンゼット式」の一種としている)、特有の騒音はゼット孔を排水路の深い位置に置くことや噴流の噴出時間を自動コントロールすることで抑制している。洗浄操作を自動化(センサー化)した操作性、ロータンクを廃止したデザイン性や節水性に優れるほか、貯水が不要となり連続使用も可能にするが、停電時は特殊な手動操作により洗浄しなければならないほか、一般に便鉢の洗浄力はサイホン式よりやや劣り(サイホン式は便鉢を100%の水流で洗うが、この方式の場合は70%程度)、水圧の低い場所では使用できないのが欠点である(INAXサティスは、水圧の低い場合にそれを補う低流動圧対応ユニットをオプションで用意している)。
ハイブリッドエコロジーシステム
TOTOの商品。水道直圧式をベースに小型タンクを組み合わせ、水道から直接流れてきた水はボール内の洗浄に、内蔵タンクからの水はポンプで加圧してゼット穴部分から勢いよく噴出させる新洗浄方式。これにより従来タンクレストイレが使えなかった水圧の低い場所(戸建て2階、マンションの高層階、高台など)でも使用可能になっている。2007年8月1日発売の「ネオレストハイブリッドAH」で採用。[8]
トルネード式(腰掛式)
便器のリム面からボウル面全体を水平方向に洗浄するトルネード水流と孔の位置を従来の封水部の屈曲部方向から左サイドに置き、孔から封水部縦方向に水流を発生させて汚物を排出するTOTOで新規に開発した洗浄方式。2006年10月2日に発売した壁排水専用便器「ピュアレストMR」で初採用された。壁排水便器専用の洗浄方式である、床排水便器には採用されなかった。
ツイントルネード式(腰掛式)
壁排水便器専用の洗浄方式であるトルネード式を基本とし、封水部垂直方向にトルネード水流を発生させて汚物を排出する床、壁排水に対応したTOTOの洗浄方式。従来のサイホン式と比べて吸引時の空気巻き込みによる騒音発生が一部を除いて大幅低減され、洗浄水量は4.8Lで洗浄するため、従来の13Lよりも8.2Lの節水に成功した。洗浄音は従来の超消音便器サイホンボルテックス式(洗浄水量16L)並みになった。結果、従来品と比べて節水、洗浄音の面で優れた洗浄方式となった。TOTOでは2010年4月1日に発売されたウォシュレット一体形便器「GG」に初採用され、同年8月2日発売された「ピュアレスト」シリーズ、手洗い付きウォシュレット一体型便器「GG-800」、住宅用システムトイレ「レストパルSX」にも採用された。
6リットル便器
INAXでは2006年より、大洗浄6リットル・小5リットルを実現した節水便器「eco6」(エコシックス)を発売している。現在の節水型サイホンゼット便器が限られた洗浄水量において排出性能確保をゼット孔吐出水に依存しており、便鉢流下水量を制約して洗浄力を低下させているとの反省に立ち、節水と便鉢洗浄力向上との両立を念頭に再設計された新系列である。ゼット孔を設けず、独自設計の分配管を介して洗浄水を吐出させる「まる洗い洗浄」を核にしたサイホン式(サティスアステオ・アメージュV・Pita)およびネオボルテックス式(アメージュC)と、「まる洗い洗浄」にゼット孔排出を併用した水道直圧式(サティス)との3種が品揃えされた。
TOTOも同年8月より、INAXサティス競合品のネオレストで大6リットル・小5リットル・男子小4.5リットル洗浄の新シリーズを発売した。さらに11月からは、ピュアレストシリーズやウォシュレット一体型便器:Zシリーズ、住宅用システムトイレ:レストパルSXなどのロータンク式サイホンゼット便器で便器内部構造の改良により6リットル洗浄を実現している。
給水の形態
水洗便器と給水装置の関係については、よく自動車に例えられて説明される。水洗便器がボディーとすれば給水装置はエンジンに相当し、両者一体となって初めて十分な機能を発揮することが出来、給水方式や給水装置機種の違い次第で同じ便器でありながら性能や特性が違ってくる等、便器と給水装置の組み合わせの選択は重要となる。
フラッシュバルブ式
高圧の水道管に直接取り付けられたバルブで、バルブ操作後一定時間(約10秒)水が流れて自動に止まる機能があり、便器に給水する洗浄水の水圧や流量等の水流の出力を制御するバルブである。
簡便でコンパクト、かつ使用水量も少なく高水圧で便器洗浄が出来、連続使用が可能という利点がある反面、25A以上の給水管径が必要、給水圧力が0.07MPaより低いと正常に作動せず使えない上、フラッシュバルブ動作時の流水音が大きく、大便器用フラッシュバルブの場合、起動弁のレバー棒が足で踏まれて操作される事が多く故障や衛生面で問題があるという欠点がある。また凍結による破損にも弱いため、流動弁を設けて凍結防止対策をした寒冷地用フラッシュバルブも存在する。
日本ではデパート、ホテル、オフィス、駅などの商業施設や工場、あるいは学校などの連続使用が求められるさまざまな水洗便所で多用されている。
その反面、一般住宅での採用は少なく、戸建住宅では一般的に給水管径が13A、15A、20Aであり、給水圧力も0.07MPaに満たない事も多く、大便器用フラッシュバルブを使用することが出来ず、屋上などに受水槽からの高置水槽を設置し、25A以上の給水管径と水圧を確保できる集合住宅や、特殊的に25A以上の給水管を導入して給水圧力を確保した一部の戸建住宅に僅かに設置されている程度である。しかしそれでも、簡易水洗便器の場合は、一般的な住宅の便所でも採用されることがある。
構造は、一般的な手動フラッシュバルブの場合、給水側から順に開閉弁部(ストップバルブ)、本体部、バキュームブレーカ部の順で構成されており、便器への給水圧は開閉弁のスピンドルで調整する。本体部にはピストンバルブが内蔵されており、フラッシュバルブを起動させるレバーペダル棒や押しボタン等の起動弁部が本体側面部に組み込まれており、その内部にピストンバルブを起動させるバネ圧の押し棒部が内蔵されている。本体上部には流量調整ネジが付いており、ピストンバルブの昇降ストローク量により流量が変動し、ネジを開けると吐水量が増え、ネジを閉め込むと吐水量が減る仕組みになっている。
本体に組み込まれているピストンバルブはバルブ上部外周にわん皮パッキンが巻かれ、側面中央部にストレーナー(フィルター)があり、下部には案内羽根が付いており、その中心部にリリーフバルブ先端の起動羽根が突出している。ピストンバルブ上部の中心部には逃し弁の穴が開いており、その中にはリリーフバルブと押えバネが仕込まれている。一次側(給水口側)と二次側(便器に繋がった排水口側)とはわん皮パッキンで仕切られ、わん皮パッキン上部が圧力室部であり、ピストンバルブ上部の圧力室側になる一次側と二次側の間には針先程の小穴が開いておりストレーナーを経て繋がっている。ピストンバルブの底部にはシートパッキンと呼ばれる中央部にストレーナーが付いたパッキンが組み込まれている。
作動原理は、静止時においてはピストンバルブは圧力室の水圧で押し下げられて弁を閉じているが、レバーペダル棒や押しボタン等の起動弁を操作すると、バネ圧の起動用の押し棒が出ることにより、ピストンバルブの起動羽根が押され、リリーフバルブの逃し弁が開き、ピストンバルブ上部の圧力室部に溜まった、高水圧の水が二次側(便器)に抜ける為に、圧力室の圧力がゼロになることから、給水圧力によりピストンバルブが圧力室上壁部まで上昇し案内羽根部を経て吐水(便器への給水)が始まる。便器への吐水開始と同時にピストンバルブのストレーナー(フィルター)から小穴を経て圧力室に水が徐々に入り、溜まってゆくにつれて水圧によりピストンバルブがゆっくり押し下げられながら降下しはじめて、やがて圧力室部が満水になると水圧によりピストンバルブが押し下げられて完全に下降、シートパッキン部に着地することで、自動的に水が止まり便器の1回分の吐水(1サイクルの動作)が終了する。
節水式のフラッシュバルブはピストンバルブの起動羽根がスライド伸縮式の二重構造になっており、一度の操作で1回分の吐水しかしないノンホールディング機能を持ち万一レバーペダル棒や押しボタン等の起動弁を押し続けても二重になった起動羽根が押し棒部上面に乗り上げるのでピストンバルブの降下を妨げることなく下降閉止する機能を持ち、さらに、圧力室に水を流入させる小穴も通常の小穴以外にリリーフバルブ部上面にも存在するバルブからによる二重流入構造になっており、フラッシュバルブ流水ピーク時に至るまでは通常の小穴以外のリリーフバルブ部上面にも存在するバルブの小穴部からも圧力室部に水が流入させる機能を併せ持っており、フラッシュバルブ起動開始直後からはバルブの弁上部の羽根が飛び出た状態で圧力室に水が流入し、フラッシュバルブのピーク時にピストンバルブ最上昇点に至るとリリーフバルブ部上面のバルブの羽根部は押し込まれ閉鎖され、以後は水圧により羽根が飛び出ることなく、通常の小穴のみから圧力室部に水が流入し、ピーク時の時間を短くして吐水を節水制御する機能になっている。
電装式のフラッシュバルブには電磁弁が内蔵され、一次側と二次側の間に電磁弁が組み込まれ、センサーやスイッチでの起動信号が入ると、電磁弁が開き一次側の圧力室部の水が電磁弁のバイパス管部を介して二次側に流れることでピストンバルブが起動する。
また側面には停電や電池切れの時用に手動ボタン弁が付いており、手動ボタン弁で操作した場合は手動フラッシュバルブと同じ原理で作動する。
つまり、1回操作する度に内部のピストンバルブが上下に1往復ピストン運動をして1回分の洗浄水を吐水する。
大便器用フラッシュバルブを設置する際は断水時など給水管の負圧による逆サイフォン現象による汚水の逆流防止のために負圧破壊装置であるバキュームブレーカの取り付けが義務付けられている。
バキュームブレーカには吸気弁と給水塞止弁が内蔵されており、給水管に負圧が発生すると直ちに給水塞止弁が閉まり、吸気弁より外部の空気を吸い込み汚水の逆流を防止する。またフラッシュバルブの吐水時(便器への給水時)以外はフラッシュバルブ〜便器への給水管に吸気弁より空気を取り入れ大気圧状態にする。このためフラッシュバルブ閉止時(便器洗浄終了時)バキュームブレーカの吸気口から空気吸入音が聞こえることがある。また無数に開いた穴の吸気口を持つ旧型バキュームブレーカの場合、フラッシュバルブ起動開始時(便器洗浄開始時)に吸気弁が閉まり、フラッシュバルブ閉止時(便器洗浄終了時)に吸気弁が開く吸気弁の開閉動作が吸気口の無数に開いた吸気穴から垣間見える。
フラッシュバルブの操作方法は長らくレバーペダル棒や押しボタン等の起動弁を手動で操作して起動させる方法が主流であった。
他に、大便器洗浄装置であるフラッシュバルブを壁内等便器から離れた場所に設置したトイレの場合、便器の傍らに、押しボタン弁や足踏み弁を設け、この弁からリモコン用の配管を介して水圧によりフラッシュバルブを遠隔操作で起動させるリモコンフラッシュバルブが古くからあった。
近年に新設されるトイレのフラッシュバルブでは大便器用、小便器用共に赤外線人感センサで人体を感知して使用後に自動で起動する自動フラッシュバルブや手かざしセンサーや薄型のタッチスイッチで電磁弁を作動させ起動する電装式のフラッシュバルブが主流になってきており衛生的になっている。特に大便器用の自動フラッシュバルブはセンサーの感知した時間で大、小の流し分け機能も搭載しており節水にも有効である。
自動フラッシュバルブや電磁スイッチタイプの電装式のフラッシュバルブには大便器用、小便器用共に設備保護洗浄機能が搭載され長時間使用(通水)がない場合、便器の排水トラップ内の封水が蒸発により内部の水が減少、乾きからの破封を防止するために設備保護タイマーにより最後の洗浄から24時間周期で自動的に1回分の洗浄を行う機能を持ち、更に大便器用では、小洗浄が連続する場合、大便器配管つまり防止のため使用状況に応じて大洗浄を行う機能も持っている。
自動フラッシュバルブの一部は水勢を利用して水力発電をして自らの制御電力に使用する機能を搭載した機種も存在する。
近年は小便器用、大便器用共に便器本体にフラッシュバルブを組み込んだ物や壁内にフラッシュバルブを設置されることも多く、フラッシュバルブが直接目に見えない場所に設置されるため、悪戯防止にもなるほかスッキリしていてトイレ空間の向上が図られている。
また、最近では、起動弁のレバーペダル棒が足で踏まれて操作されることが多く故障や衛生面で問題であった手動フラッシュバルブであったトイレにおいても後付けの自動フラッシュバルブに換装される場合が多く、新設されるトイレにおいては手動フラッシュバルブの採用は減っている。
便器の洗浄水に海水を使用する船舶関係では、海水の塩分による腐食防止を対策をした耐海水用フラッシュバルブが使用される他、便器の洗浄に雨水や中水道や工業用水道などを使う場合も腐食対策対応の再生水用フラッシュバルブが使用される。
これらの腐食防止対策をしたフラッシュバルブは部材に高耐食性材料が使われ、高耐食めっきがされている。
フラッシュバルブはボディや内蔵されたバルブも含めて概ね100以上の部品から構成されている。材質はボディやピストンバルブ部は真鍮、青銅製、ピストンバルブのストレーナー(フィルター)部とシートパッキン中心部は網状のステンレス製、ピストンバルブのワン皮パッキンは牛革をなめし加工した皮革または合成ゴム製、ストップバルブ(止水栓)、バキュームブレーカ、シートパッキンの外枠部などのパッキン類は合成ゴム、天然ゴム、皮革製、ピストンバルブ内部のバルブ部、バキュームブレーカ内枠、レバーハンドルの押し棒部付根はABS樹脂製である。
以前に製造されたフラッシュバルブの配管接続部やバキュームブレーカの一部のパッキンには石綿製のパッキンも使われたがアスベスト問題の法的規制があり現行品のフラッシュバルブには使用されていない。
フラッシュバルブが多く設置されている施設においては、故障を未然に防ぐ為に、あらかじめ新品及び、ストレーナーと小穴を清掃、パッキン類を交換し、リリーフ弁等の可動部をグリスで給脂した点検、メンテナンス済の予備のピストンバルブをストックしておき、定期的にピストンバルブを交換される場合が多い。
交換したピストンバルブはメンテナンスした上で次回の交換時に使用され、ローテーションを繰り返し使用されるが、ピストンバルブは同型品であっても各々が個性的な吐水の仕方をする場合があるので、交換後は便器の吐水状況を確認し、本体上部にある流量調整ネジ等で水の出力を調整する。
またピストンバルブの下部のシートパッキンの細かな網部に異物が詰まったり、網部が傷つくと止水不良で少量の水が流れっぱなしになるので、ピストンバルブ取り出し時にシートパッキンの網部の点検も必要である。さらに、汚水の逆流防止のための負圧破壊装置であるバキュームブレーカが故障すると負圧が発生した時に汚水が逆流する恐れがある為に、定期的にバキュームブレーカの吸気蓋を取り外した上で、フラッシュバルブを操作し水を流して、吸気弁の開閉動作の作動状況を確認し、吸気時に混じった埃等の吸気弁パッキンへの付着した異物の清掃と吸気弁からの水漏れが無いかを点検する必要がある。
フラッシュバルブ式の便器に汚れ、除菌、尿石付着防止などの洗浄薬剤を便器の洗浄水に添加する場合、タンク式のように直接薬剤を投入出来ないため、サニタイザーディスペンサー(薬剤供給装置、Sanitizer dispenser)等の薬剤の入った機器をフラッシュバルブの給水管に組込み連結し水をサニタイザーディスペンサーに流入させ溶解した薬剤を大便器、小便器に供給する。この装置は衛生面や快適性を重視する施設を中心に設置されていることが多く、最近では自動フラッシュバルブに前述のサニタイザーディスペンサーを内蔵したフラッシュバルブも大便器用、小便器用共に存在する。
最新の電装式フラッシュバルブには人感センサによる便器洗浄機能以外に、擬音装置や、一定時間以上同一人物が入室したままの場合、盗撮などの防犯や中で人が倒れている恐れもあるので安全の為に通報する機能や、フラッシュバルブが悪戯をされた時や故障時など、機器の異常を通報する機能を併せ持っているものもあり、盗撮や不審者が疑われる長時間入室の退室後や、悪戯が疑われる機器の異常を感知した場合、トイレ入口部の防犯カメラと連動し、中には警備会社の警備システムと連動しているものあり、警備会社に自動的に通報が行われる機能を併せ持っている機器もある。
タンク式
専用のタンクにあらかじめ注水しておき、バルブ操作によって洗浄水を放出する方式である。タンクに一定量の水を貯える方法はいくつかあるが、主にボールタップによりタンクに水を貯め、タンクから便器への排水はフロートバルブを使用する方法が一般的でフロートバルブにはボールタップ故障時のタンクからの水の溢れを逃す為のオーバーフロー逃し管(溢水管)が繋がっている。タンクの形状や配置によっていくつか種類がある。タンク式の場合満水になるまで(約60秒以上)次の洗浄が出来ない欠点があるため、公共施設などの利用者が多いトイレではフラッシュバルブが採用されることが多い。
戸建住宅では一般的に給水管径、水圧も不足するために、大便器用フラッシュバルブを使用することが出来ず、タンク式がほとんどを占めている。
タンク式では給水圧や給水管径を問わられずに様々な環境で水洗便所を設置出来る長所がある反面、占有する面積が大きく、タンクが満水になるまで次の洗浄が出来ない為に連続洗浄が出来ない、便器の洗浄にフラッシュバルブのような高水圧が得られなく便器の機種によってはタンク式には組み合わせ出来ない機種もある等の短所があり、最近ではこれらの問題を解決しタンク式の長所とフラッシュバルブ式の長所を取り合わせたフラッシュタンク式が新たにラインナップされている。
ハイタンク式
天井に近い位置にタンクを置き、水を貯めて、鎖紐を引き下げ操作して、サイホン作用を起こすことで排水機能が起動し、給水管を経て床面の便器へ給水する方式。かつては落差が大きい方が洗浄力で有利とされていたことから、戦前期から昭和50年代中ごろまで圧倒的多数を占めていた。しかし、メンテナンス性の悪さ、設置時の制限、イニシャルコストが高いなどの欠点があったため、以降は急速にロータンク式へと置き換えられた。現在は既存の古い建物でわずかに見られる。また、水道圧が確保できない際に、押しボタンで遠隔操作するバルブを使用して見かけだけ直圧式にした隠しハイタンクが若干だが存在する。陶器の他に、日本での水洗便所普及初期や、戦時中などに木製のタンクが製造されていた。木製のタンクは内壁に銅板が張り詰められ防水されていた。
なお、INAX(のちのLIXIL)はTOTOよりも早く2010年までにハイタンク(部品を含む)の製造及び発売を終了し、TOTOも2012年3月をもって、ハイタンクの部品や本体をすべて廃盤。これに伴い、日本のハイタンクは消滅した。
ロータンク式
便器のすぐ上、人間の腰元程度の高さにタンクを置き、直下の便器へ給水する方式。タンク上部を洗面器にしておき、給水される水を手洗いに使用することもできる。かつては便所の室内のコーナーに壁かけ、ハイタンク式同様給水管で便器と接続する隅付ロータンクが主流だったが、ハイタンク式が新たに作られなくなり互換性の必要がなくなったこと、ステンレスまたは真鍮のパイプが露出することに対する美観の問題、占有する面積が大きくなることなどから、便器の真上にタンクを載せた密結形が主流となった。その後、昭和60年代から近年まで戸建住宅水洗便所のほとんどを占めた。これらのロータンク式ではタンクの上部にはタンクの蓋の代わりに手洗い器を兼ねている水盆を置き、タンクの給水の一部の水が水盆上の手洗い部に出て来て、手を洗った水を便器の洗浄用に再利用するようにした仕組みである。この場合、節水効果が得られるだけではなく、トイレ内に個別に手洗い器を設けることを省略でき、しかも工事代も安く抑えることができるためにトイレを広く使用することができることから住宅や限られたスペースの狭い空間のトイレで広く採用されており、この形態は日本特有の方式である。便器の汚れ防止、除菌、便器〜配管の尿石防止付着のための薬剤を便器に供給するために薬剤をタンク内に投入したり、タンク上部手洗い用水盆部に薬剤を置いて薬剤を溶解させ便器洗浄水に薬剤を添加する場合が多い。これらは青色や緑色で着色されている薬剤も多く、洗浄をすると便器に青色や緑色の水が流れる。またこれらの洗浄薬剤は芳香剤も含んでいることも多く芳香剤代わりに薬剤を投入することも多い。
シスタンバルブ式
ハイタンク式と同様に天井に近い位置にタンクを置き、給水管を伸ばして床面の便器へ給水する方式あるが下部の給水管にフラッシュバルブ同様のバルブを組み合わせたものをシスタンバルブといい、主に公衆便所のトイレで多用された他、過去には一部の古い戸建住宅でも採用された。フラッシュバルブと同じ構造、操作方法でありながらタンク式であるために満水になるまで次の洗浄が出来ない欠点がある。バルブ本体の形状、吐水、作動原理は低圧型フラッシュバルブと同様の構造となっている。最近は採用例が減っている。なお、TOTOはハイタンクと同じく、シスタンバルブ式(ハイタンクなどの)の部品も2012年4月に廃盤。これに伴い、TOTOはシスタンバルブ式ハイタンクの製造の幕を閉じた。
フラッシュタンク式
TOTOが開発したフラッシュタンク式は、タンク式と同じ口径(呼び径※215A)の給水管からの水流をタンク内で増幅し、約4倍の水流にして便器洗浄を行い、タンクの貯水時間を大幅に短縮し、フラッシュバルブ式と同等の連続洗浄が可能であり、電源不要の新しい洗浄システム。
パブリックトイレでは一般的なフラッシュバルブ式に比べて、省施工化が図れるだけでなく、給水設備(配管とポンプ)のサイズダウンが可能で、建物の省資材化も図れ、次の洗浄まで約60秒かかるタンク式と比べて、約20秒で次の洗浄が可能なので、飲食店などのトイレの混雑緩和につながる他。さらに、一般的なタンク式大便器より奥行が約60mmコンパクトであり、トイレ空間が広く使え、事務所、店舗、学校、病院、高齢者施設などフラッシュバルブが使えなかった現場でも連続洗浄が可能で、さらにフラッシュバルブのように施工時にバラバラな部品をミリ単位で施工精度も必要とせずワンタッチで施工が出来、便器は新しい「トルネード洗浄」が採用され、4.8Lと超節水化が可能な最新のシステムで最近施工された施設から普及されはじめている。
水洗便器用薬剤供給装置
小便スラッジからなる尿石は尿中に溶けているカルシウムイオンが炭酸などと反応し、カルシウム化合物として、便器および便器のトラップ、便器からの配水管の内部に付着する。尿石には尿中の有機物も含まれており、これが腐敗分解するとトイレ独特の臭気が発生する。トイレにおける悪臭の主たる原因になっており、尿石が便器から排水管への付着や蓄積が進むと悪臭がさらにひどくなり、やがて排水管の詰まりが起こる。このため、各業者から尿石除去及び防止の薬剤が発売されており、古くからトイレボールと呼ばれる球状の尿石防止薬剤を男性用小便器排水口付近に投入されることが多かったが、最近は洗浄水を電気分解して生成した機能水を流し、バクテリアの繁殖を抑制してアンモニアの発生や尿石付着を防止する機能がある小便器が発売されているほか、公共の施設の水洗式トイレでは水洗便器の洗浄水に尿石防止や消毒薬剤を添加する装置であるサニタイザーディスペンサーなどが設置されることが多い。主にデパート、駅、ホテル、劇場、病院などの衛生面や快適性を重視する施設の、男性トイレでは小便器に、女性トイレでは和式大便器・洋式大便器の便器洗浄管(便器への給水管)に組み込み連結して設置される。
サニタイザーディスペンサーが設置されている男性トイレでは、おおむね小便器のみに設置され、和式大便器・洋式大便器には設置されないことが多いが、同一箇所の女性トイレにはほとんどの和式大便器・洋式大便器にサニタイザーディスペンサーが設置されている。これは同じ大便器でも男性トイレの大便器に比べると女性トイレの便器(大便器)は実質上、小便器の役割も兼ねているため、排尿に供される頻度が極端に高いためである(男性トイレの大便器にもサニタイザーディスペンサーが設置されているトイレも存在する)。
主な構造はフラッシュバルブなどの便器の給水管から枝分かれした構造の連通管(給排水管)を設け、サニタイザーディスペンサー本体と結管され、フラッシュバルブ起動毎にフロート付きの弁装置の作用で一定量ずつの水を取り込む。サニタイザー内に仕込まれた薬剤ボトルの底面にある海綿体の浸出性瓶栓から浸出する薬剤を、サニタイザー内に取り込まれた水で希釈して薬剤水溶液とし、フラッシュバルブが閉止して便器への流水が終了する間際になると前記給水管内の内圧減少に伴って、この薬剤希釈水溶液を前記フロート弁装置の弁室および連通管を介し、再び便器への給水管内に排水する。常にほぼ一定量の濃度の薬剤溶液が機器内で生成されて便器に供給され、便器から出て来る薬剤溶液により消毒剤による便器内の消毒と、洗浄剤による便器内の防汚洗浄がなされ、便器の表面は常に薬剤で防汚コーティングされて便器内から排水管までが絶えず防汚される。便器洗浄水を流すたびにサニタイザーから便器への薬剤溶出の一連の動作が繰り返され、使用待機状態の便器は常に表面や管路は除菌消毒され、トラップなどの便器内の水溜りには一定量の濃度に保たれた薬剤の溶液が常時滞留している状態となり、消毒、防汚、脱臭、尿石の付着防止に効果的に作用する。
また便器洗浄後のサニタイザーから便器への管路や便器内の管路に残留した薬剤の溶液は次回の洗浄開始直後に便器から出てきて消毒剤による便器内の消毒と、洗浄剤よる便器内の防汚洗浄がなされ使用前の便器の表面は常に薬剤で防汚コーティングされる。便器洗浄水を流す度にサニタイザーから便器への薬剤溶出の一連の動作が繰り返されることにより、便器の洗浄・脱臭・静菌・排水管のつまり防止がなされて、使用待機状態の便器は常に表面や管路は除菌消毒され、トラップ等の便器内の水溜りには一定量の、濃度の薬剤の溶液(約100 ppmの濃度の溶液)が常時滞留しバクテリア等の細菌の繁殖を抑制されると同時に薬液からのトイレ内の芳香がなされている状態となる。
各メーカーいずれのサニタイザーにもフロート弁が内蔵され、サニタイザーへの水の入排水はフロート弁の昇降動作により一回分の薬剤を便器に供給する他、フロート弁付け根部は六角形になって各々の角部面の中心に入排水口穴が開いており、起動すると六か所の穴から放射線状に水が入水することで溶解槽部に水が均等に安定供給されフロートが上昇し所定量に達するとフロート弁が閉鎖され、一連の動作か終了するとフロートが降下して弁が開放され一定量に溶解された薬液が六か所の口穴から排出され便器に供給される。
サニタイザーはそれぞれメーカーにより維持管理され、一定周期で定期的に薬剤交換、薬剤補充の他、同時にサニタイザーの機能動作等の作動状況の確認と保守点検がなされると共に便器に出てきた薬剤の濃度をpHメーター等で測定し、薬液の生成状況や便器の状態を管理される同時に便器を徹底的に磨き上げられる。
水洗便器の製法
便器の製造は長石、陶石、粘土を水に混ぜた泥漿(でいしょう=泥水)を作り、泥漿を型に流し、成形する。
成形型は石膏製と樹脂製があり、石膏製は型の製造が容易で安値ある反面、ライフサイクルが短く、樹脂型は型の製造が高価であるがライフサイクルは非常に長く、大量に成形が可能である。主に少量生産の場合は石膏型を、大量生産の場合は樹脂型が用いられている。
成形された製品は約24時間熱風の中で乾燥させ、キズやヒビがないかをひとつひとつ肉眼で検査し検査に合格した製品は
施釉(せゆう)と呼ばれる色付けと艶を出す釉薬を吹き付けた後、焼成工程に入り、トンネル窯で、約24時間かけて焼き上げる。
陶器は焼きあがると10%ほど元の大きさから縮むことから熱による縮みと重力での変形を正確に逆算しなければならない技量が必要である。
完成した便器は出荷前検査として、擬似異物などの代用物にて洗浄不良検査、水漏れ検査など全数洗浄検査を、目に見えない傷がないかどうかは、製品をハンマーで叩き、その音で判断する検査を実施し、出荷される。
出荷時の便器のリム部には未使用品を見分ける為の封印紙が貼られ施工時や養生時、便器使用開始前の清掃時に剥がされる。(最近の製品では封印紙が省略されている場合もある)
便器のカラー
便器の色は従来から概ね白色系の製品が多いが、水回りの空間のコーディネート及び男性用、女性用の性別のトイレにあわせてカラー便器が使用される場合がある。なお、非水洗便器の場合は単純な白色が基本的であり、アイボリー系を含むカラー製品は極端に少ない。
男性用トイレのトイレではブルー色系の便器を、女性用のトイレではピンク色系の便器を使用して識別により使い分けられる場合が多く、これにあわせてトイレの内の内装の色も男性用トイレは寒色系、女性用トイレは暖色系の内装になっていることが多い。
これはトイレの内装のデザインもあるが、色分けによって識別することで間違えて異性のトイレに侵入を防ぐ効果もあることから採用される場合がある。
(男性用トイレの便器にピンク色系や女性用トイレにブルーの便器が使用される場合も僅かながら存在する)
近年のブルー系やピンク色系便器の色は淡い色の製品となっているが、以前の製品ではブルー系やピンク色系でも、かなり濃い色の製品も存在していた。
他に淡いカラーでは黄色や緑色、グレーや薄茶色の製品も生産された他に、濃色カラーではワインレッドや群青色、濃いブラウンやグリーン、黒色の便器も生産された(濃色の便器は水垢が目立つ等で数年で生産を取りやめているほか価格も他の色より高価だった)。
また尿の色で健康状態がわかりやすいこともある為に、尿の色で健康状態を管理する場合、白系統の色の便器が使用される場合が多い。
現在では各メーカーともにカラー便器には消極的で白やアイボリー系のカラーに集約する傾向がある。
便器の品番確認
便器の品番は以前の製品では新品の状態の場合、紙製の品番シールラベルが便器内側の流水部に貼られており、施工後引き渡し時や通水検査時および使用開始前の清掃時に剥がされ(紙製の品番シールラベルに直接洗浄水や小水が掛かるため)、または故意に剥がされない場合でも汚損や便器の流水によって自然に剥がれていくことが常であったが、この場合、後日の修理や便器の交換時に便器の品番が確認できない等で特定することが出来ず、便器の形状で調べなければならない等の支障が出ることがあった。
近年の製品(1984年生産分以降の製品)では紙製の品番シールラベルに代わって便器の裾部や横部等の水が掛からない部位に品番が記載されているビニール製のステッカーが貼られており、その近くには色番が記載されたビニール製のステッカーも貼られており容易に便器の品番や色番が確認できるようになっている。同時に従来便器に焼印されていたJIS-V表示マークもビニール製品番ステッカー内に収録されるようになり、便器への焼印はメーカーロゴのみとなった(JIS-V焼印がありビニール製の品番ステッカーが無い便器は1983年以前の製品であることが解る。なお1983年以前でも一部の便器にはJIS-V焼印がない製品もある)。
これらのビニール製の品番ステッカーは粘着がかなり強固であり、無理矢理剥ぎ取らない限り通常の力では剥がれないステッカーとなっており半永久的に品番が確認できるようになっている他、悪戯で品番ステッカーを剥ぎ取って他の品番ステッカーを貼り替えられないように一度剥がすと粘着力が無くなる材質になっている。
さらに最近の製品ではQRコードが印刷されたビニール製の品番ステッカーが併せて貼られており、そのQRコードには便器の生産拠点(生産工場)、生産日、出荷日、品番、色番の情報が入っており、施工時や引き渡し時に施工業者や顧客がバーコードを読み取って登録すると施工日や施工場所、付帯機器の情報がメーカーに登録され、その後の修理やメンテナンス、果ては便器交換に至るまでのアフターサービスの向上にも役立つようになっている。
特例としては特殊品や補修品(既に廃番の製品を補修用途で特別に生産した物)に限っては旧来の紙製の品番シールラベルが貼られる場合がある。
便器の表面処理
TOTOが表面処理技術を特許を取得したセフィオンテクト(CeFiONtect)は、同社の大小便器、洗面器などの衛生陶器に使用されている。
釉薬を焼き上げ、100万分の1ミリメートル単位になめらかにし、イオンバリアを表面に付け、汚れをはね返すことができる独自の技術である他、セフィオンテクトで焼き付ける0.2mmの特殊なガラスにより、便器表面の平滑が、実験上は100年近く継続することが確認されている。他のメーカーでもLIXIL(INAX)ではハイパーキラミックプロガード、2017年からアクアセラミックが施釉される等最近の製品では各メーカーからも防汚対策された商品が発売されている。
過去の表面処理がされていない古い製品では使用頻度が高く汚損しやすいトイレの便器や、長年使用し経年により水垢や汚れの輪滲み、尿石の付着、長年水洗便器用薬剤供給装置からの薬剤洗浄による薬剤焼け、洗浄水に井戸水が使用されたトイレにおいては水質によっては鉄分を含んだ赤水による便器表面の錆び付着や井戸水に含まれた藻類付着、高置水槽等の受水槽で発生した藻や苔の便器表面付着等で通常の清掃方法では除去出来ない程汚損した便器に対して特殊な技術を持つ業者により薬剤で清掃除去し、さらに便器表面をガラスコーティングを行うことで新品並に陶器表面を保護された補修便器や長年使い込み釉薬が剥がれた便器に対して特殊塗装によりコーティングをする専門の業者により便器の補修がされる場合がある。
トイレの改修工事において内装や小便器、洋式大便器は新品が使用され新装されながら、埋め込み等施工され交換等が大掛かりで面倒な和風大便器は給水装置であるフラッシュバルブは新品に交換され床材も新調された上で従来の和風便器自体は特殊清掃、ガラスコーティングにより新品並にリフレッシュした上で再利用(流用)される場合もある。
注意事項
節水効果を上げるため、よくサイホン系でタンク内にペットボトルや煉瓦などを入れ、タンクに貯水できる水量を減らすことが行われているが、メーカーでは「これは誤りで、却って故障の原因となる」として、行わないよう求めている。
タンクを用いるものでは、タンクと便器が一体となって設計されており、タンク満量の水量でどんな糞尿でもきれいに洗い流すことができるようにしている。九州朝日放送『ドォーモ』が、地元ということでTOTO本社に行ってトイレ開発の現場を取材した際にも、関係者が開発のやり方を見せながらそのように指摘したことがあった。節水化の方式としては上記の便器における排水形状の変更だけではなく、便器に被膜することで、汚れにくくするとともに少ない水量でもきれいに洗い流せるようにしているものもある。TOTOはCe F ion Tect(セフィオンテクト)の名称でこの技術に関する特許を取得しており、他の自社水回り商品だけではなく、自動車のサイドミラーにも応用されている。INAXも「プロガード」「ハイパーキラミック」と呼ばれる防汚・抗菌技術を導入している。
水洗便器にはトラップと呼ばれる排水路の封水(水溜り)があり、下水道の悪臭や硫化水素などのガスを遮断する。また衛生害虫、ネズミなどを排水管から屋内へ侵入するのを防ぐ。
長期間便器の使用(通水)がないと蒸発により内部の水が減少し排水トラップ内の封水が乾いたり、自己サイフォン現象や管内の負圧が大きいと破封(トラップ内の水が減少しトラップとしての機能を失う現象)が起こり悪臭や硫化水素などのガス、衛生害虫、ネズミなどが排水管から屋内へ侵入する恐れがあり、場合によっては破封した便器のトラップから下水管からの騒音が聞こえる場合もあり、破封が起こらないように配慮が必要である。
また便器のトラップに溜まった水が、ゆらゆらと動くことがあるが、これは下水管の負圧から起きる現象で、これが強くなると破封が起こる原因となる。
特に大便器においては、数基の便器を連立して設置された水洗便器や2階以上に水洗便器を設置する場合、便器の排水能力に悪影響を与えたり、排水管の負圧を防止するため大気を取り入れるよう通気管を設置しなければならない。これは、便器からの排水時にサイホン作用でトラップが破封する恐れがあり、特に連立して設置された水洗便器では洗浄排水時に連立され排水管が繋がっている他の水洗便器にまでサイホン作用が発生しトラップの封水に影響があり、場合によっては破封してしまう恐れがある。、他の便器の洗浄中に静止状態の便器のトラップに溜まった水が、ゆらゆらと動くのは排水管に負圧があるからで、多数の便器を連立させる場合は数か所通気管を設けなければならない。また連立した便器の排水管にはY字状のLT継手で接続することが不可欠でT字状のDT継手で接続すると通気管があっても通気不良や排水不良になるのでDT継手で施工しないよう注意が必要である。
水洗便器の清掃に塩素系と酸性の洗剤を混ぜると有毒な塩素ガスが発生することと、浄化槽を使用している場合は生物にダメージを与える恐れがあるため、使用量に注意すること。塩素系や酸性の洗剤を用いたり、柄付きたわし以外のもので便器内を磨くときは長袖の衣服、保護眼鏡、ゴム手袋、マスクなど保護具を着用し、換気を十分に行うのが望ましい。
水垢や尿石などの頑固な汚れは紙やすり(耐水ペーパー)等で削ると容易に除去できる。ただし、使い方や便器の色、材質によっては傷になるため、後日かえって汚れが付きやすくなってしまう。清掃業では、衛生陶器表面の釉薬層を傷つけ、色沢を損なうので、紙やすり(耐水ペーパー)、クレンザーを使うことはない。温水洗浄便座や暖房便座は洗剤の成分によっては破損する恐れがある。また、故障や感電の原因になる。
エア・コンディショナー等の空調設備のドレン排水の配管や雨樋の配管を取り廻しの関係で便器洗浄のタンクに接続配管される場合があるが、この場合タンクの水を温水洗浄便座に使用する場合は衛生面でバクテリアや雑菌による感染症防止やお尻かぶれを防止するために配管を別系統に分ける必要がある。また和式大便器等の温水洗浄便座を使用しない場合でも空調機器のドレン排水管内や雨樋からの苔、ミズゴケ類等の藻類、や錆、バクテリアによるスライム、場合によってはサカマキガイ等の小型貝類やボウフラがタンク内に流れ込みタンク内やタンクからの便器への管路、便器内の管路に苔や錆が付着する事や便器から出てくる事もあり、場合によってはタンク内や管路内で苔、ミズゴケ類等の藻類やサカマキガイ等の小型貝類やボウフラが繁殖する場合もあり、タンク内の機器の作動不良等の故障や管路の詰まりを未然に防ぐ為に定期的にタンク内部の点検し、付着や繁殖している場合は清掃、除去が必要となる。
浄化槽にミズアブ(アメリカミズアブ)などが発生すると、ミズアブ(アメリカミズアブ)の幼虫(蛆)は浄化槽から配管を伝って便器のトラップに出て来ることがあり、 必要に応じて、駆除が必要となる。
水洗便器とトイレットペーパー
水洗便所でトイレットペーパーは洗浄水を流しても水流の関係で、便器のトラップの水溜りでクルクルと回るだけで、流れに乗りにくい状況が発生する事がある。
特に、吸引作用が無く、水勢のみで洗い流す洗い出し式和式便器等の洗浄方式によっては、完全に便器内から無くならず、滞留する現象が発生する事がある。
これは大便洗浄の時にはきちんと流れて、小便洗浄時や紙だけ流す時は流れにくいのは、トイレットペーパーの紙の間に空気が入ってしまい、浮力により便器の水溜りでクルクルと回るだけで流れない事があり、この場合紙を丸めるなどして、ある程度固めてから、便器に捨てて、流す事で解消出来る。
トイレットペーパーが便器から流れきれない場合でも少量であれば水解紙製であれば詰まりの原因にはならない。
また、公共のトイレでトイレットペーパーの芯を不心得者によって水洗便器に捨てられ、詰まりが発生することあることある事から、芯紙が無い、芯なしタイプや、水解紙製の芯のトイレットペーパーを使うことで、芯を便器に捨てられても詰まりの発生を防止することができる。
脚注
注釈・出典
^ 便器は存在しないが、便宜上「壁式小便器」と呼ばれたりする。タイルやモルタルの壁のみがあり(仕切板が存在する場合もある)、その壁に尿が当たって下の溝に流れる形態である。
^ TOTOきっず:トイレなんでもアラカルト
^ ブルーノ・タウトは『タウトが撮ったニッポン』(武蔵野美術大学出版局)の中で「日本式のしゃがむトイレは優れている」と書いている。
^ 考案者の島秀雄にちなんで「S式便器」と称した。
^ “Decreto ministeriale del 5 luglio 1975”. it:Il_Sole_24_Ore. pp. 3. 2017年9月19日閲覧。 イタリアの住居における衛生に関する省令、第七項目バスルーム
^ Decreto-Lei n.º 650/75 de 18 de Novembro (in Portuguese), 18 November 1975, art. 84
^ Narinari.com編集部 (2010年4月19日). “和式と洋式が合体? 大手メーカーもわからない謎の「2WAY便器」を求めて。 | Narinari.com”. Narinari.com. 2013年2月14日閲覧。
^ TOTO - タンクレストイレ・ネオレスト
関連項目
関連項目が多すぎます。関連の深い項目だけに絞ってください。必要ならば一覧記事として独立させることも検討してください。(2017年9月) |
- 便所
- 水洗式便所
- 日本の便所
- 汲み取り式便所
- フラッシュバルブ
- 無水トイレ
- ポータブルトイレ
- トイレットペーパー
- トイレットトレーニング
- TOTO (企業)
- TOTOの商品
- セフィオンテクト
- INAX
- ジャニス工業
- サニタイザー
- 北陸窯業
- ネポン
- 王シュレット事件
マルセル・デュシャン - 小便器に署名しただけの作品『泉』を制作した。
A-1 (航空機) - ベトナム戦争時に便器に信管を付けて投下した。- 汚物流し
- ビデ
- 排水設備
- トイレの記号
- 芳香剤
- スパッド
外部リンク
- 日本衛生設備機器工業会
- トイレの詰まりを取り除く方法