ポリティカル・コレクトネス
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ポリティカル・コレクトネス(英: political correctness、略称:PC、ポリコレ)とは、性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用することを指す[1][2][3][4]。政治的妥当性ともいう[1]。
1980年代に多民族国家アメリカ合衆国で始まった、「用語における差別・偏見を取り除くために、政治的な観点から見て正しい用語を使う」という意味で使われる言い回しである。「偏った用語を追放し、中立的な表現を使用しよう」という活動だけでなく、差別是正に関する活動全体を指すこともある。[要出典]
ポリティカル・コレクトネスは差別是正活動の一部として、英語だけでなく日本語など英語以外の言語にも持ち込まれ、一部の表現の置き換え・言い換えにつながった。
目次
1 概要
2 日本における実例
2.1 一般用語
2.2 医学用語
2.3 生物名
3 関連項目
4 脚注
5 参考文献
概要
政治的立場では区別する以外の目的で、容姿・職業・性別・文化・人種・民族・信仰・思想・性癖・健康(障害)・年齢・婚姻状況などによる社会的な差別・偏見が含まれていない、公正・公平な表現・用語を使うよう推奨している。適切な表現が存在しない場合は、新語が造られることもある。
英語の敬称においては、男性を指す「Mr.(ミスター)」が未婚・既婚を問わないのに対し、女性の場合は「Miss(ミス)」(未婚)、「Mrs.(ミセス)」(既婚)と区別されるが、それを女性差別だとする観点から、未婚・既婚を問わない「Ms.(ミズ)」という表現に置き換えられるようになった。この語は、「mister」の女性形で、未婚・既婚を問わない語として17世紀頃に使用されていたが、その後、「Miss」「Mrs.」に置き換えられていた。それがポリティカル・コレクトネスによって復活したことになる。
人種・民族においては、黒人を指す「Black(ブラック)」がアフリカ系アメリカ人を意味する「African American(アフリカン・アメリカン)」に置き換えられた。一方、本来はインド人を意味する「Indian(インディアン)」がアメリカ州の先住民族を指すことが多かったため、カナダでは「First Nation(ファースト・ネーション)」、アメリカ合衆国では「Native American(ネイティブ・アメリカン)」という表現に置き換えられた。
職業名に(伝統的に男性であることを示唆する)「~man」がつくものは女性差別的であり、ポリティカル・コレクトネスに反するとして、「~person」などに変更されているものがある。以下のようにすでに定着している表現も多くなってきた。
職業 | 伝統的な表現 | ポリティカル・コレクトな表現 |
---|---|---|
議長 | chairman | chairperson または chair |
警察官 | policeman | police officer |
消防官 | fireman | fire fighter |
実業家 | businessman | businessperson |
写真家 | cameraman | Photographer |
要の人物 | key man | key person |
専業主婦や家政婦など、女性であることが当然と決め付けるような表現も問題となる。固有名詞であるウルトラマンやスーパーマンは言い換えない。
また、身体的特徴を持つ人を述べる際には、その特徴に直接言及することは避けて、婉曲表現を用いる。例えば、「精神障害のある」を意味する「mentally challenged」という表現、「耳の不自由な」を意味する「hearing-impaired」という表現。
特定の用語の使用だけでなく、言葉の表現の仕方だけで問題になる場合もある。例えば、アメリカ合衆国大統領候補であったロス・ペローは、ある公開質問の場において、黒人の観衆からの質問に対して「あんたたち」(英: You People)という表現を多用した。これが黒人をよそ者扱いしているとして批判された。
2004年の年末の記者会見では、ブッシュアメリカ合衆国大統領も「メリー・クリスマス」ではなく、「ハッピー・ホリデーズ」と述べた。
また、イタリアでは小学校の年末の演劇会において、例年恒例であったキリストの降誕劇を止めて、『赤ずきん』に変えるというところも現れた。しかし、これらに対しては伝統や文化の否定であるという意見もあり、論争となっている。
1993年には「ポリティカリー・コレクトという概念を盲目的に信仰する」姿勢を皮肉り、敢えて自分の意見を主張するという趣旨のトーク番組(Politically Incorrect)の放送が始まった(ビル・マーも参照)。
一部の言語では、元来女性がその職務に就くことが想定されていなかったため、単純に女性形にすると「(職業名)の妻」などの意味になってしまうなど、適切な女性形がない場合もある。
言語 | 言葉 |
---|---|
ドイツ語 |
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オランダ語 |
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スウェーデン語 |
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また、名詞の性によって動詞や形容詞の活用が左右されるため、男性形と女性形を分けるフランス語のように、このような言い換えが全く出来無い言語も少なくない。
日本における実例
日本においても、ポリティカル・コレクトネスの考え方により、用語が言い換えられた事例がある。
一般用語
従来の用語 | 中立の用語 | 備考 |
---|---|---|
看護婦 看護士 | 看護師 | 2002年、保健師助産師看護師法改正。男性も職業に就いているため。 |
障害者 | 障がい者 障碍者 | 「害」の字が使われていることに不満がある人の感じる悪い印象を回避するため。2001年(平成13年)に東京都多摩市が最初に採用。 |
助産婦 | 助産師 | 2002年、保健師助産師看護師法改正。ただし現行では資格付与対象は女性限定である(同法3条)。 |
保健婦 | 保健師 | 2002年、保健師助産師看護師法改正。 |
保母 保父 | 保育士 | 1999年、児童福祉法改正。男性も職業に就いているため。 |
スチュワーデス スチュワード | 客室乗務員 フライトアテンダント キャビンアテンダント (CA) | 1996年に日本航空が従来の呼称を廃止。他社も追随した。世界の航空会社では、男性も従事している。 |
土人 | 先住民 | 1997年、北海道旧土人保護法廃止 |
トルコ風呂 | ソープランド | トルコ人留学生、ヌスレット・サンジャクリの抗議により、1984年に改称。 |
肌色 | ペールオレンジ うすだいだい | 人種により、肌の色は異なることから。 |
女優 | 俳優 | 男優という言葉があるのにもかかわらず、男性のみに俳優という肩書が使われることが多いため。[要出典] |
メクラフランジ | 閉止フランジ | JISなども改正済み 英語ではblank flange・blind flangeなどと云い、JISでも記号はBLと残る |
学校などで名前を呼ぶときの敬称に、男子に「君」、女子に「さん」を用いていたのを、男女とも「さん」で呼んでいることが一部で行われている。
医学用語
従来の用語 | 中立の用語 | 備考 |
---|---|---|
伝染病 | 感染症 | 1999年、伝染病予防法廃止 |
痴呆症 | 認知症 | 2004年、厚生労働省による改名 |
精神分裂病 | 統合失調症 | 2002年、日本精神神経学会による改名 |
らい病 癩病 | ハンセン病 | 1996年、らい予防法廃止 |
認知症、統合失調症などにおける当事者や家族の心理を慮ったものである[要出典]。
生物名
従来の用語 | 言い換え語 | 備考 |
---|---|---|
アシナシゲンゲ | ヤワラゲンゲ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
イザリウオ | カエルアンコウ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
オシザメ | チヒロザメ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
セムシウナギ | ヤバネウナギ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
バカジャコ | リュウキュウキビナゴ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
ミツクチゲンゲ | ウサゲンゲ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
メクラウナギ | ヌタウナギ | 2007年、日本魚類学会による改名 |
関連項目
- 婉曲法
- 表現の自主規制
- 性差別
- 言葉狩り
- アファーマティブ・アクション
- ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー
- 新左翼
- フランクフルト学派
- ヘルベルト・マルクーゼ
脚注
- ^ ab「ポリティカル‐コレクトネス」 - デジタル大辞泉、小学館。
^ 「ポリティカル‐コレクトネス」『大辞典』小学館。[要文献特定詳細情報]
^ 「ポリティカルコレクトネス」『大辞林』第三版、三省堂。
^ http://www.collinsdictionary.com/dictionary/politically-correctness[リンク切れ]
参考文献
ヘンリー・ビアード・クリストファー・サーフ著、馬場恭子訳『当世アメリカ・タブー語事典』(文藝春秋、1993年、ISBN 4-16-348070-6、"The Official Politically Correct Dictionary and Handbook"Villard Books, 1992年 ISBN 0-586-21726-6 の訳)批判的立場から書かれている。