徳川家康 (山岡荘八)
『徳川家康』(とくがわいえやす)は、1950年3月から1967年4月まで北海道新聞・東京新聞・中日新聞・西日本新聞に連載された山岡荘八の歴史小説。ソフトカバー版、講談社文庫版を経て、現在は講談社の山岡荘八歴史文庫(いずれも全26巻)のロングセラーとなっている。
1968年、第2回吉川英治文学賞を受賞。
目次
1 概要
2 タイトル
3 歴史の表舞台に立たない重要な登場人物(架空を含む)
4 若き日の家康を教育した人物
5 女性の役割
6 関連書籍
7 本作を原作とした作品
7.1 映画
7.2 TVドラマ
7.3 アニメ
7.4 漫画
8 脚注
9 外部リンク
概要
主人公の徳川家康の生母、於大の方の縁談から、家康逝去までの七十余年が描かれている。完成のために使用した原稿用紙は17,400枚に上る。ギネスブックにおいては、マルセル・プルースト著『失われた時を求めて』(1913-1927年出版 フランス語原書3000ページ、日本語訳400字詰め原稿用紙10000枚)と並び、「世界最長の小説」として記録されている[1][2]。
山岡は第二次世界大戦中、従軍作家として多くの特攻隊員を取材した経験があった。その際に触れた日本の存続や世界平和への祈りを胸に秘めて散っていった彼らの思いを、徳川家康の欲した「泰平」に重ね合わせて描こうとした。山岡は連載を終えた後書きを、自邸内に設けた特攻隊員を祀る「空中観音」小堂で書き記している。
連載当初は、新興の織田家と超大国である今川家にはさまれ、独立もままならない松平家の苦難と発展を、当時の日本の姿に重ね合わせる読者も多かったという。また、明治以降の一般的家康イメージから大きくかけ離れた「戦のない世を作ろうと真摯に努力する家康」「なんとか大坂の陣を回避し豊臣秀頼を助命しようとする家康」「皇室尊崇の念の篤い家康」は、「狸親父家康」のイメージを改善するのに大きく貢献した。後にはビジネス本としても評判となり、経営者虎の巻のような扱われかたもした。ジャイアント馬場や落合博満、横山光輝など、各界の著名人も愛読したという。
韓国では「大望」という題名で出版され、ベストセラーとなった他、中国でも2007年秋の刊行以来、全13巻計200万部を売るベストセラーになっており、高い評価を得ている。
タイトル
- 第1巻 出生乱離の巻 (於大、広忠の婚姻 家康の出生)
- 第2巻 獅子の座の巻 (今川家へ人質へ行く途中、織田家に拉致される 父、広忠の死 人質交換で今川家に)
- 第3巻 朝露の巻 (織田家の台頭 桶狭間の戦い)
- 第4巻 葦かびの巻 (岡崎への帰還 織田信長との同盟 一向一揆)
- 第5巻 うず潮の巻 (三方ヶ原の大敗 信玄の死)
- 第6巻 燃える土の巻 (武田勝頼との戦い 家臣の裏切り)
- 第7巻 颶風の巻 (信康の切腹 長篠の戦い)
- 第8巻 心火の巻 (武田家の滅亡 本能寺の変)
- 第9巻 碧雲の巻 (羽柴秀吉と織田家の内紛)
- 第10巻 無相門の巻 (秀吉との確執 外交戦略)
- 第11巻 竜虎の巻 (秀吉の台頭 和解)
- 第12巻 華厳の巻 (秀吉との同盟)
- 第13巻 侘茶の巻 (北条氏の滅亡 関東移封)
- 第14巻 明星瞬くの巻 (利休の死 朝鮮出兵)
- 第15巻 難波の夢の巻 (秀吉の死 家康の台頭)
- 第16巻 日蝕月蝕の巻 (石田三成との確執)
- 第17巻 軍荼利の巻 (関東出兵 三成の陰謀)
- 第18巻 関ケ原の巻 (関ヶ原の戦い)
- 第19巻 泰平胎動の巻 (戦後処理 豊臣家との関係構築)
- 第20巻 江戸・大坂の巻 (家光の誕生 内紛)
- 第21巻 春雷遠雷の巻 (国内統治 海外貿易)
- 第22巻 百雷落つるの巻 (大坂の軍備増強)
- 第23巻 蕭風城の巻 (平和交渉決裂 一触即発)
- 第24巻 戦争と平和の巻 (真田幸村入城 大坂冬の陣)
- 第25巻 孤城落月の巻 (大坂夏の陣 豊臣家の滅亡)
- 第26巻 立命往生の巻 (伊達政宗の反乱 家康の死)
歴史の表舞台に立たない重要な登場人物(架空を含む)
- 熊の若宮(竹之内波太郎・後の納屋蕉庵)
織田信長、日吉丸(豊臣秀吉)、明智光秀、随風(後の天海僧正)などに一目置かれている有力な郷士。「桶狭間の戦い」の作戦に重要な役目を果たす。後半は堺の豪商納屋蕉庵として家康の前に現れる。- 竹之内久六
- 於大の兄・信近。暗殺されかかったのを契機に元の名を捨て、再婚した妹の身辺を守る。
茶屋四郎次郎(一~三代)- 元徳川家の家臣、商人になり家康に協力する。
- 本阿弥光悦
- 刀の砥ぎ師、鑑定師、家康に心酔し協力する。日蓮宗の信者で清廉潔癖な人物。
- 随風(後の天海僧正)
- 時折、修行の途中に熊の若宮の屋敷に立ち寄り、天下国家を語る。若き日の日吉丸や明智十兵衛(光秀)を伴って来る。山中で出会った、家康に謀反すべきかと迷った家臣に助言したり、北条氏直に諌言して豊臣秀吉との講和を勧めたりする。
若き日の家康を教育した人物
- 太原雪斎
今川義元の軍師。竹千代(家康)が乱世を終息させる人物であると見抜き、将来を託し教育する。- 本多作左衛門
- 家康の年長の家臣。若き日の家康を教育する。歯に衣着せぬ物言いで、時に家康をバカ呼ばわりすることも。
女性の役割
弱い立場である女性も、平和のために男達に立ち向かう姿が描かれている。
- 家康の祖母華陽院は人質になっている竹千代(家康)の養育のために雪斎禅師に交渉して岡崎から駿府に移り住んだ。
- 家康の母於大は一向一揆で逆らう家臣に激怒する家康を諌める。
前田利家の妻芳春院は戦闘状態にあった羽柴秀吉との和解を夫に進言する。後年、利家亡き後、家康から疑いを掛けられた時進んで人質になり、百万石の前田家を守った。- 秀吉の正室北の政所は、夫の死後大坂城の自分の住まいを進んで家康に明け渡し、その後の交渉を有利に進めた。
細川忠興の正室ガラシャは、関ヶ原の戦いの直前、石田三成から人質として大坂城に入るようとの要請を断り、自害して果てた。他家の女性がこれに習うの恐れた三成は、人質の要請を断念した。- 家康の不信を受け謹慎させられた夫松平忠輝を救うため、正室五郎八姫は天海僧正に寛大な処分が下されるよう嘆願し、これを助命した。
関連書籍
- 山岡荘八『史談 家康の周囲―歴史随想集』(1987年)(光文社時代小説文庫)ISBN 978-4334706227
- 山岡荘八・桑田忠親『徳川家康―歴史対談』(講談社文庫 1979年)ISBN 978-4061315501
- 山岡荘八『徳川家康名言集』(講談社 1967年)
本作を原作とした作品
映画
- 『徳川家康』 (1965年 東映) 出演:北大路欣也
TVドラマ
『徳川家康』 (1964年 NET(現・テレビ朝日))主演:北大路欣也、壮年期は市川右太衛門
『竹千代と母』 (1970年 日本テレビ)主演:中村光輝
- 『徳川家康』(1983年 NHK大河ドラマ)主演:滝田栄
『徳川家康 戦国最後の勝利者』 (1992年、テレビ朝日)、主演:北大路欣也
アニメ
- 『少年徳川家康』(1975年 NET)
漫画
横山光輝『徳川家康』(コミックス全23巻、講談社漫画文庫全8巻)
脚注
^ 2011.10.03 文春写真館「ギネス記録を持つ“元祖・国民作家”山岡荘八」2018年2月3日閲覧
^ ブックオフオンラインコラム 本を楽しむ、本の豆知識・雑学「世界一長い小説と日本一長い小説とは?2018年2月3日閲覧
外部リンク
- 産経新聞『ベストセラー再会』